第33話 最速のスローなスーパーハイスピードで

「攻略法?」


 ブラックパラレルカナタが呆れたように口をぽかんと開けて言った。


「ヒーローのくせに恥も外聞もなくそんなこと聞けるなんて、パワーだけじゃなくストロングハートも持ち合わせているんだな」


「いやいや、こう見えてもガラスのように繊細ですよ」


 ヴァーチャライザーの奥からじとっとした目で俺を睨むブラック。パラレルワールドのタナカとは言え、要はおんなじ俺同士じゃないか。有益な情報を共有することは多角的経営戦略上必須なコミュニケーションじゃないですか。


「わかったよ。今回だけな。手本を見せてやるよ」


「よっ、さすがは異世界特撮ヒーロー様」


 一瞬だけブラックパラレルカナタの姿が明滅した。さては時間操作したな。


 瞬きするまもなく、ブラックの蹴爪ブーツに一体のメテオマンが捕まっていた。見上げれば、八体浮かんでいるはずのメテオマンズも七体しかいない。一瞬の出来事で奴らも動揺しているのか、隕石変身することなくみんなこっちを凝視している。


「おまえの予想通り、メテオマンは強い衝撃を与えると分裂再生増殖する。隕石として落下して分裂し、増殖後即再落下して周囲一帯の地盤をひっくり返す厄介な異世界生物だ」


 哀れ、メタリックでごつい蹴爪にとっ捕まったメテオマンは必死に暴れて蹴爪ブーツから逃れようとじたばたしてる。だが、甘い。蹴爪はますますでかい頭に食い込んでいく。


「こいつの攻略法は強い衝撃を与えず、弱い圧力でじわじわ締めるんだ」


 俺もまだ入手していないヒーローアイテム、ブラックパラレルカナタの蹴爪ブーツが踵部の排気口から蒸気を吹き出し、きちきちちと時計の針が進むようなメカニックなノイズを奏でてメテオマンの頭を締め上げていく。


 なるほど、パワー、プレッシャーともに俺たちの方が四天王メテオマンより圧倒的に優れている。一匹一匹、確実にゆっくりと、石臼で抹茶を丁寧に挽くように潰せばいいわけか。


「こいつは隕石攻撃に特化してる。防御力は大したことない奴さ」


 角砂糖を指でつまんで砕き割るように、メテオマンは蹴爪に頭を割られて、その切り出された直線的な岩石のようなボディもばらばらに粉砕された。何だ、数が多いだけでその実質はやっぱり石ころみたいなものか。


「ああ、わかった。ナイスヒントありがとよ」


 一匹倒されたメテオマンズは形勢が逆転されたことを悟ったようだ。慌てたように空高く舞い上がり、隕石化して落下体制を取ろうとする。しかしそうはさせるか。ここからは勇者カナタのターンだ。


『時間操作能力発動。荷重力偏移能力発動』


 メテオマンズは残り七匹。もう分裂増殖はさせない。


 時間操作してまずは手近な一匹を捕まえる。素早く、そして水の詰まった風船を受け取るように優しく。荷重力偏移してすっかり軽くなったメテオマンの身体を抱えて、次のメテオマンへ速攻でひとっ飛び。


「一匹残らず潰してやるよ」


 一瞬で七匹全部重ねて捕まえて、荷重力偏移解除。メテオマン自身の体重でぐんっと重力に引かれる力が強くなる。落下が始まった直後に重力編集。重力加速度を倍速、さらに倍、そして重力加速度限界突破だ。


 メテオマンのボディに衝撃を与えることなく、物理的に最高の加速度まで高まった勢いで地面が迫ってくる。このまま落下すれば、その衝撃でメテオマンは再び増殖するだろう。街も隕石落下異常の壊滅的なダメージを受けてしまう。だからこそ、地面に激突する寸前に重力編集解除、からの時間操作だ。


『スーパーハイスピードモード発動』


 あえての超加速を食らいやがれ。メテオマンズにスーパーハイスピードをぶっこんでやる。メテオマンはこの物理世界において光に次いで最高速の存在となった。


「ぶっ潰れろ。メテオマンズ」


 最高速から見れば、他のものはすべてスローに展開してしまう。それがスーパーハイスピードの世界だ。超高速カメラで撮影したかのように、圧縮蒸気砲の鋼鉄の拳がメテオマンにゆっくりと押し当てられる。


「メテオマンズ・ブースト!」


 メテオマンのでかい頭が七匹分積み重なって超スローモーションで地面にぶつかる。そして俺の圧縮蒸気砲が優しく射出され緩やかに激突する。


「グレイトフル・スーパーハイスピード・カナタ・パンチ!」


 スーパー優しく、スーパーゆっくりと、しかし超圧力で撃ち出された鋼鉄の拳が衝撃を与えずにメテオマンの頭部にめり込んでいく。地面がほんの少しずつひび割れ、ほんのちょっとずつえぐれ、低反発枕に手のひらをスローで押し付けるように、メテオマンの頭部が変形していく。


 たっぷり数十秒かけて岩石はひび割れて一切音も立てずに砕け割れた。それが一匹目の頭だ。砕けた頭部がゆっくりと時間をかけて散り散りになり、スローな圧縮蒸気砲のパワーが二匹目の頭に到達する。


「俺こそが」


 三匹目、四匹目を叩き割る。


「勇者カナタだが」


 五匹目、六匹目を割り砕く。


「何か用か?」


 七匹目、ラストメテオマンのボディが頭部もろともゆっくりと木っ端微塵に砕け散った。同時にスーパーハイスピードモード解除。空気の振動さえもスローになり音が響かない空間はようやく終わりを迎えた。


 召喚モンスター四天王、隕石人間メテオマン戦、俺の完全勝利でスローに決着。こんなもんさ。

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