第32話 召喚モンスター四天王 隕石人間メテオマン参上

 召喚モンスター四天王、隕石人間メテオマン。メテオマンだと? 8ビットレトロゲームのステージボスキャラみたいな名前しやがって。


「隕石として落ちてくるなんて、どんな異世界で生活したらそんな限定的な性癖を得られるんだ?」


「言うな。破壊に関する攻撃スキルに特化した召喚モンスター。それが四天王だ」


 しかも衝撃を与えると増殖する特異体質か。俺の時空を超えた三重攻撃を受けても砕け散らず、むしろ四体に分裂して増えちまった。ご丁寧に一発につき一体分裂するのか。


 人間一人ほどの大きさだが頭がかなりでかく、そのせいで頭身デザインが少し壊れて見える。こいつだけ全体的に画素が粗いと言うか、モノトーンの色調の身体付きがかなりカクカクしていた。まるでおもちゃのブロックでヒトガタに組み立てたようなシルエットをしてる。


「どうする、勇者カナタ。俺も手伝おうか?」


 ブラックパラレルカナタがゆっくり浮き上がって言った。いやいや、まさかだろ。パラレルワールドの自分の力を借りるほど勇者カナタは未熟じゃあない。


「まだだ。この程度じゃまだヒーローバトルとは呼べない」


 どれどれ、本当に一発で分裂増殖するのか試してみるか。そのでかい頭を、分裂増殖した四体まとめてぶっ壊してみるか。


 メテオマンズはまるで動きをシンクロさせるように四体同時に再び空へと舞い上がった。どうやらもう一発、隕石化して火球攻撃を仕掛けてくるようだ。


 いったいどれだけ惨めな異世界生活サイクルなのか、ただ隕石として地表に落ちてくるだけの人生だ。そんな刹那的な異世界に転生しなくて本当によかったと思うぞ。


 いや、だからってメテオマンに同情してるわけじゃない。その破壊と再生のみにパラメータを振り分けたような思い切ったシンプル過ぎる戦い方を多少はリスペクトしてるつもりだ。だから、こっちもパラメータ振り切れた一撃をもう一発披露してやる。


『ハイパースローモード再発動。アンチグラヴィティエリア拡大』


 メテオマンズの動きがふわっと止まる。俺の重力圏内から逃すかよ。


 分裂メテオマンはショックを与えると分裂する。おそらくは破壊したパーツがそれぞれ異常な速度で再生しているんだろう。そして異常再生能力キャラの弱点って言ったら、そりゃあコアだ。コアを潰せば再生ボディもぶっ壊れる。そしてそのコアは頭部に埋もれていると相場は決まってる。そのでかい頭、ざっくりと刺し貫いてやる。


「アンチグラヴィティ・ファルコンダイブ・ヒロイック」


 そのずんぐりむっくりしたデカ頭、それも四体を直線的に貫くようになって狙いを定めて、自由落下からの重力編集加速度落下キックだ。


 重力を失ってじたばたと無駄な抵抗をしていたメテオマンの一体に、空気の壁を突き破りソニックブームを巻き起こし、真っ白い光を放つ俺の鋭利な蹴りが突き刺さった。頭身バランスの悪いデカ頭、顔面のど真ん中に。


 一気に足首まで顔面にめり込む。音もなく爆裂するでかい頭部。膝まで何の抵抗もなく貫通する。やがて遅れて岩石が破裂するような破壊音が響く。その頃には、俺はすでに二体目、そして三体目の頭をファルコンダイブで貫いていた。


「ブレークスルー・キック!」


 四天王とやらを刺し貫いた勢いそのまま、いや、むしろ再加速して最後の四体目に超高速の蹴りを突き刺す。ブラックパラレルカナタの蹴爪ブーツと違って普通の革製のライダーブーツだけど、蹴りそのものの攻撃力が高いから装備の差は関係なく敵を殲滅できるはずだ。


 上空に四つの隕石人間の花火が打ち上がった。岩を砕く破壊音とともに爆散するメテオマンの頭部。一つ、二つ、三つ、四つと、確かに頭を蹴り砕いてやった。


「やったか?」


 重力を編集して空中に仁王立ちし、ゆっくりと振り返り、俺は自分自身の口で敗北フラグを立てる台詞を吐き捨てたことに驚いてしまった。


 俺は今「やったか?」と言ったのか? 何てことを。それは、あきらかに「やれてない」フラグだ。もうもうと煙る爆炎の向こう側に、無傷で立ちはだかる強敵の姿を拝まされる台詞じゃないか。


 ほら。振り向けばメテオマンズだ。今まさに分裂し、そして風船を膨らませるように再生しているメテオマンの姿があった。


 その数は八体。これで八連続隕石落下攻撃ができるってわけだ。その一発一発が城下町を壊滅させられる大爆撃を、同時に八発。俺に、すべてを撃ち落とせるか。撃ち落としたところで、次は十六連射だ。


「16発の次は32連発。そして64連続隕石落下。さらに128発の隕石落とし。256発の隕石が空を覆い尽くし、512体の四天王メテオマンが炎に包まれて降り注ぐ」


 ブラックパラレルカナタが俺が頭の中で計算してた未来予測を冷酷に告げてくれた。


「このままじゃ負けるぞ、勇者カナタ」


「ブラック。おまえは平行世界を渡り歩いてきたんだろ? このシーンを何度も見てきたのか?」


「ああ。たくさんの異世界ヒーローカナタのうちでもおまえは強い方だ。でも、残念だが、敵はもっと強いってだけだ」


「いいや、俺が最強だ。俺こそ最高だ」


『メタ認知再構築能力レベルアップ。ツヨイココロ発動』


 ヴァーチャライザーのウィスパーボイスとともにふつふつと力が込み上げてくる。


「なあ、ブラック。おまえも勇者カナタの端くれだろ? イングリットさんのために力を貸せ」


「どうすればいい?」


「平行世界での奴の攻略法を教えろよ。俺が仕留めてやる」


 強い心で、臆面もなく俺は胸を張って言ってやった。

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