第22話 論理的敗北
ぐったりと伸びてしまっている師団長。外傷こそないものの、だらしなく仰向けに大の字になっちゃってるその寝姿には威厳も何も見当たらない。
建物の中にいるのに頭上に見える突き抜ける青空と遠くに見える緑の山々。カナタ・パンチで兵舎師団長室の壁も天井もぶち抜いて、もはやここは瓦礫が散乱した災害現場だ。
そんなぶっ飛んだ現場に騒動を聞きつけて集まってきた防衛師団の兵士たち。剣術の訓練中であったり、装備品の点検中であったり、みんなそれなりに兵士的な格好をして俺を取り囲んでいる。
そういえば、The Dの奴は言ってたっけ。「ワタシの姿が見えるのか?」って。ということは、おそらくあいつは普通の人間には感知されない本物のゴーストタイプだったんだろう。兵士たちはみんな険しい顔して俺を見たり、睨んでたり、目を逸らしていたり。
これは、どう見たって、俺の犯行だって思われるシチュエーションだ。どうあがいても現行犯逮捕ものだ。The Dとの熱く強い心で臨んだ戦闘の結果、たぶん奴の狙い通りではなかっただろうけど、結果的にその計略にはまってしまったようだ。勝負に勝ってケンカに負けたって具合だ。
防衛師団の作戦行動に参加協力してはいるものの、俺は正式に軍に配属されてるわけではない。軍は召喚された異世界モンスターを保護して、それを兵器として利用しているに過ぎない。
最強で無敵な兵器は従順に命令通りに敵を粉砕していればいい。おまえの意見なんて聞いていない。もう防御一辺倒ではなく、攻めるぞ。ここんとこの防衛師団の方針はそんな感じで、俺の特撮ヒーローとしてのポリシーとは離反していた。
潮時なのかな。何故かふと、そう思った。
そこへみんなより遅れて、屈強な兵士たちの中で一際細くか弱く見えるイエローのパンクヘアがやってきた。イングリット・アルマヴィヴァ、22歳、夢見る召喚観測士だ。
「カナタ! あんた、何やらかしたの!」
はい。イングリットさんの悲鳴に近い叫び声で、俺の犯行だって断定されちゃったわけで。周りの防衛師団の面々もざわっとなる。
「敵の異世界モンスターが襲ってきたんだよ」
努めて冷静に俺はイングリットさんの側に立った。
「敵の異世界モンスターって、どこ?」
パンクヘアを右へ左へ、きょろきょろと敵の姿を探すイングリットさん。でも見えるのは俺が破壊した師団長室と巻き添えを食ってぶっ飛んだ師団長。瓦礫の中でぐったりとして呻いている。生きてはいるが、元気ではなさそうだ。
「あたしは予兆を観測していない」
だろうね。The Dがいつから師団長に取り憑いていたかが問題だ。
「もう逃げたよ。今までと違う新しいタイプの召喚モンスターで、いつ召喚されたのかわからないし、たぶん召喚観測士は誰も観測できていないと思う」
イングリットさんは黙り込んでしまった。
防衛師団の兵士たちも誰一人言葉を発することなく、少し斜めになったり、うつむき気味にして上目使いだったり、俺を真っ直ぐに見てくれない。
イングリットさんは、言い訳もしない責任逃れもしない、何も喋らない俺にそっと近付いてくれて、耳元で囁いた。
「あたしはカナタを信じるけど、今のこの状況って、すごくまずいと思う」
「いいよ、イングリットさん」
軍に参加協力しなくたって、イングリットさんのために戦う方法はいくらでもあるだろう。俺がここからいなくなれば、ひょっとすると俺を狙った敵モンスターの召喚もなくなるかもしれない。
「俺、少しの間城下町に降りるよ」
俺はイングリットさんにだけ聞こえるように小さく言った。それを聞いたイングリットさんははっと顔を上げて何か言いかけて、でも周囲の冷たい空気を感じ取り、何も言わないでくれた。やっぱりイングリットさんはいい人だ。俺の唯一の味方だ。
俺はゆっくり兵士たちの間を歩いた。心の中で、じゃあなって呟いて。兵士たちは誰も何も言わなかった。
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