第15話 音よりも早く、光よりも速く
だだっ広い平原。ところどころ岩肌が荒々しく剥き出て、それが色濃く苔生して、いい具合で緑色にアクセントをつけている。遠くにはいかにもモンスターが息づいていそうな深い森。そして雄大な山々が澄み渡った空を支えている。なんて荘厳な大自然の情景なんだろうか。
緑の大地に横たわる人の形をした巨大過ぎる岩の塊。青のグラデーションに雲ひとつない空にはアダムスキー型UFOが浮遊し、低い電子音とともに真っ赤なレーザービームで空爆してくる。そして岩石大巨人の残骸に隠れてUFOの隙を伺っているヴァーチャライザーと圧縮蒸気砲、スキルベルトを装備した特撮ヒーローめいた俺。壮大な自然の風景が一気に特撮してくる。なんて燃えるロケーションだ!
「カナタ、アレも召喚モンスターなの?」
イングリットさんが俺の背中にしがみつく。これまたヒロイックでロマンシングなシチュエーションじゃないか。戦闘をもう少し楽しんでみたくなってくる。
「たぶんね。成層圏とか、かなり上空に召喚されたからイングリットさんも観測できなかったんじゃないかな」
イングリットさんにフォローを入れつつ、岩石巨人からそうっと顔を出して空の様子を覗き見た。
するとすぐさまレーザービームが撃たれて岩石の一部が灼かれ、熱で膨張し、溶けた岩が爆発飛散する。その度に俺はイングリットさんを抱いて熱い爆風の範囲外まで超加速移動する。
「ずいぶんと狙いは正確だな。さすがアダムスキー型」
「あだむすきーっていう奴なのか?」
「そうだよ。宇宙からやってきたくせに地球でも通じるレトロフューチャー・デザイン。カッコいいよなー」
「いや、よくわかんない」
いくらカッコいいレトロフューチャーだからって、超加速した俺には敵わない。巨人の影を俺が超スピードで移動する度に、アダムスキー型は俺とイングリットさんの位置を見失うようだ。全然レーザービームを撃ってこない。
でも俺がアダムスキー型の位置を確認しようとひょっこり顔を出せば、即レーザービーム発射、熱爆発、俺はイングリットさんを守るために超速移動、そしてふりだしに戻る、だ。
さっきからその繰り返し。埒があかない。
「一撃で墜とすしかないか。イングリットさん、ちょっと伏せてて」
レトロフューチャー・デザインをもっとじっくり見たかったし、内装がどうなっているのか、そして中の人はどんな奴なのかも気になるとこだけど、もういいや。
「とうっ!」
俺はなるべくイングリットさんから離れるように巨人の影から飛び出した。
アダムスキー型、即レーザービーム発射。ほぼ同時にヴァーチャライザー・オン!
『耐熱属性発動。すべての熱ダメージは無効』
レーザーを真正面から見るとただの光点だ。その軌道が変化しないからこっちも狙いやすい。俺は耐熱能力を受けた左腕を赤い光点へ向けて、手のひら広げてレーザービームを受け止めてやった。
レーザーなんてただの光学現象なはずなのに、手のひらがぐぐっと押される感覚があった。新鮮な感覚だ。
「ターゲット、ロックオン」
『熱ダメージを超蒸気圧へ変換。物理攻撃力上昇』
アダムスキー型のレーザー照射は3秒間ほどだった。手のひらに感じる圧力が消える。レーザーは空気中で直進するから、この手のひらの真っ直ぐ向こう側にアダムスキー型がいる。
「カナタ・ブースト」
次のレーザー照射まで何秒かかかるはずだ。この隙に目の前に転がっている巨人の残骸、たぶん右腕の破片だと思うけど、軽自動車くらいあるその岩の塊を掴む。
『荷重力偏移能力発動』
ぐいっと大きな岩の塊を持ち上げ、スローイング。投擲攻撃だ。巨人の残骸をぶん投げるっ!
『ハイパースローモード移行』
アダムスキー型がレーザー照射モーションに入った瞬間、すべての動きが超スローモーションになる。
「ハンマー・オブ・ムロフシ!」
空中で動きを止めた巨人の残骸を圧縮蒸気砲で打ち抜く!
『モード解除。同時に超加速能力発動』
超スピードに乗せて、行けえっ! これが勇者カナタのレーザービームだ!
キンッて撃ち出された岩石弾丸が空気との摩擦で光り輝く真っ白い音がした。目にも留まらぬ速さで空に登っていく光弾は、アダムスキー型が発射したレーザービームの直撃を受けるが、その凄まじい速度と超重力によって増幅された運動エネルギーはレーザーに灼かれるよりも速くアダムスキー型の土手っ腹を貫通した。
音はしなかった。音よりも速く、アダムスキー型撃墜。空の上、爆散する未確認飛行物体。
「あ、巨人の残骸を全部焼いてもらってから墜とせばよかったかな」
やがて聞こえる貫通音と爆発音。
呆然としているイングリットさんに、彼女だけに、ヒロイックな勝利のボーズを披露。
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