第12話 神が作りし輝かしい七日間をぶっ壊す俺


 100メートルオーバーの親巨人が爆走モードに変身して突進してくる振動で気が付いた。ここはファンタジーワールドの戦場、首都防衛ラインだ。


 よし。ちゃんと上から下に真っ直ぐな光景に戻ったな。変な時間変動もしていない。


『時間操作能力発動。荷重力偏移能力発動』


 ヴァーチャライザーもちゃんと機能しているな。まったく、勝手に人の時間を操作してくれやがって。フレスコにいじられたらどんな魔改造されるかわかったもんじゃない。


『圧縮蒸気砲再装填完了』


 ウィスパーボイスとともに右腕に装備したスチームパンクワールド装置がガチャリと機械音を奏でた。


 そうだ。今度圧縮蒸気砲をフレスコに魔改造させてみようか。時間まで圧縮される恐ろしいパンチが撃てるかも。リアルワールドのスマホを時間操作端末に魔改造してくれたように。


「待たせたな、超大型!」


 とうっ。外壁から舞い降り、巨人に向かって走る。おお、身体が荷重力で強化されてるはずなのに意識がめっちゃ軽い。いや、速いと言うべきか。他の人間より時間を早く消費しているみたいだ。


 思わず言葉を失うほどバカでかい図体してるくせに、さらに速そうなフォームに変形して異常な速度で突っ込んでくる岩石蹴爪の巨人。その異形の姿が見る見るうちにさらにさらに大きくなっていく。


「やっぱ100メートルってでかいな」


 なんかもう30階建のキラキラしたタワーマンションを薄汚れた地べたに這いつくばって見上げてる気分になる。でも、そんなみじめな気持ちも今この一瞬だけだ。一撃で終わらせてやる。いや、タイムレスワールドの特殊能力で超速展開の一撃を繰り返し味あわせてやる。


「いくぞおらあっ!」


「オオオォッ!」


 俺の叫びに応えるような巨人の咆哮が大気を痺れさせ、大地を震わせる。戦う者の雄叫びだ。わかってるじゃないか。お互い知らない世界に生を受けた戦士として、この異世界の地でどちらが強いか全力でやり合おう。


 迫り来る巨人のステップが変わった。腕をさらに高く振り上げ、地面が盛り上がり小山になるほど力強く踏み込んで、俺を狙ってサッカーボールキック!


 上等っ! 真正面から受けて立つ!


『ハイパースローモード移行。重力偏移確認。フレスコ・スピリタス様よりメッセージが届きました。メール開きます』


 ものすごい空気圧で台風のような巨人のつま先が俺を押し潰す壁となって迫る。俺は軽く飛び跳ねるように小刻みにステップを踏んで右腕を唸らせて、このタイミングでメール読むのかヴァーチャライザーはっと心の中で叫んだ。


「カナタ・インパクト」


『ほろ甘い渋味に酔いしれ波の辺り、お茶を立てくつろぎながら君を待つ。フレスコ・スピリタス』


「ジ・エンド・オブ・ブリリアント・セブンデイズ!」


 カナタ・インパクト一撃目を巨人のつま先にカウンターで当てる。巨人と俺の間にあった空気が急激な圧力変化で熱を帯びて白い光を放った。


 その瞬間に超加速発動。タイムレスワールドの特殊スキルだ。圧縮蒸気砲で打ち込まれた俺の熱いダメージが巨人のつま先に走るよりも早く、巨人の顔面めがけてハイジャンプ!


 インパクト二撃目はまさに巨人の泣き所、すねの骨を砕くカナタ・パンチ。そのダメージが発生するよりもさらに早く俺は空へ駆け上る。


 インパクト三撃目は太ももの筋肉を貫くパンチ。


 インパクト四撃目はパンチをフック気味に締めて骨盤を揺るがすパンチ。


 インパクト五撃目はアッパーでレバーの辺りをえぐるパンチ。


 インパクト六撃目は胸の中心にある心臓へ直接響く重いパンチ。


 ラスト・インパクト七撃目は脳を揺らして意識を刈り取る顎をピンポイントで撃ち抜くパンチ。


 ジ・エンド・オブ・ブリリアント・セブンデイズは超加速により一瞬で七ヶ所同時に破壊する絶対無敵のパンチだ。


 俺は巨人よりも高く飛び立ち、そこで超加速を解除して時の流れを戻した。かすかに重力が俺の身体の重さを捉えた頃、巨人はその輪郭が歪むほどに身体の七ヶ所をほぼ同時に激しく爆発させて後方へ吹っ飛んだ。


 ふわっと、なぜだかわからないが、口の中に香ばしい甘みが溢れた。この芯のある甘い味は、フレスコが淹れてくれるお茶の味だ。


「フレスコのお茶、やっぱり美味いな」


 よせ。照れる。と、フレスコの低い声が聞こえた気がした。やっとフレスコの時間が清算されたようだ。あいつの時間はいっつもずれまくってる。次に会った時きっちり言ってやらないと。


 巨人は大地を大きく揺るがして倒れ、二度と動かなかった。

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