クリスマスの御馳走

夢美瑠瑠

クリスマスの御馳走



掌編小説・「クリスマスの御馳走」



悪魔の国にもクリスマスを祝う習慣があった。これは悪魔たちのアイロニカルなジョークだった。ローブとロザリオで敬虔なキリスト教徒の扮装をして、善良そうな仮面をつけ、神に祈りを捧げるふりをする。くつくつと含み笑いをしつつ厳かに「アーメン」とつぶやき、吹き出しそうになる衝動で肩をぶるぶるふるわせながら十字を切って「恵み深い聖なる神の恩寵が我々堕天使たちにも平等に訪れますように」などともっともらしい御誓文を並べる。そうやって不倶戴天の呪わしい「信心深い子羊どもの浅薄な偽善」のパロディをするのだ。天使の歌声ならぬ不快極まりないいやらしいがらがら声で神聖な賛美歌を合唱して厳粛なクリスマスの権威を戯画化失墜させようともする。そうして、やがて「フェイクで空虚な」クリスマスという儀式の滑稽さにこらえきれなくなり、悪魔どもは聖者の仮面を脱ぎ捨てると、耳まで裂けた口から黄色い歯をむき出しにして、地獄の大地も震撼するほど不吉で恐ろしいキンキン声を張り上げてげらげら哄笑をしあうのだった。そういう悪魔らしい悪趣味な趣向だった。悪魔だけにあくまでもw悪辣なジョークに徹していて、一番相手が嫌がるものをプレゼントしあって、また箱を開けては大嗤いするのだった。銀でできた十字架だの、聖杯に入った水だの、羊皮紙に書かれた聖書だのが、贈られて、ひいひい苦しくなるほどに爆笑しあうのだった。悪魔の王様のルシファーは、毎年、最もクリスマスを冒涜した「優秀な」悪魔に、クリスマスの御馳走を与えることになっていた。これだけは本当に悪魔が好きなごちそうだった。処女の肝臓の丸焼きだの、フェニックスのトサカの活け造りだの、アダムが食べたリンゴから接ぎ木をした罪のリンゴのアップルパイとかだった。「今年の御馳走は何にするかな?」とルシファーは料理人と相談しあっていた。人間界からかっさらってきた、マエストロの称号を持つ優秀な料理人だった。「今年は」と、丸々と太った料理人は言った。「一等賞の悪魔のリクエストにこたえることにしましょうか。もうアイデアが種切れです」。ルシファーもうなずいた。「クリスマスなんだし」にやにや笑みを浮かべた。「一番食いたいものを食わせてやろう」・・・今年の最もクリスマスをコケにした悪魔は、タイジュンという悪魔が選ばれた。彼はプレゼントに「マグダラのマリアとキリストの間にできたという赤ん坊のへその緒」を用意したのだ。キリストの神聖性をこれほど冒涜するものはない、とルシファーはご満悦だった。「それじゃ、」と王様は言った。「リクエストを聞こうか。お前は何が食いたい?」タイジュンは性悪そうな目を光らせて要望を述べ始めた。「私は大体人間の肉が好きなのです。カニバリズムについては人後に落ちない知識経験を持つと自負しております。多くの人間を食べてきた経験から行きますと、あまり若い人間はだめです。脂肪が乗っている中年以降の人間のほうが旨いです。しかし食生活が貧弱だったり平凡だったりしてもダメです。長年の間最高級の御馳走を食べ続けた贅肉の塊のような人間が一番・・・」恐怖と戦慄でマエストロは真っ青になった。(終)

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