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家の前まで来た。須賀中は市街のちかくにあるし、昼休みでもよく車の通る音が聞こえてくる。
それに対して、ここは住宅街だ。車は市街ほどひっきりなしに通らない――むしろ全く通ってない――し、休日になるとよく、少年野球かなんかの小学生がランニングをしている。
中に入る。そのまま立ってシューズを脱いでいると、ふと誰かの視線を感じる。
顔を上げると、妹の凛がキッチンに続くドアにもたれかかっていた。
右胸に“AIBA”とプリントされ、黒に白と紫のラインが入ったジャージを身にまとっている。
「ただいま」
自然と言葉がでた。
「おかえり」
「誰もいないと思ってたわ。音しねえから」
「そう?手洗ってたけど」
くるりと向きを変え、白いシューズを合わせる。リビングに入ると、ニュース番組がついていた。
「あ、そのまま見てていいよ。もう上行くし」
僕と凛の部屋は2階にある。しかも、相向かい。騒がしいとすぐ、壁をたたく。
背負っていた第一カバンと、サブバッグをソファに放り投げる。
ボスッ。 ボスッ。
ソファに反発して、鈍い音が続く。
「じゃあ、勉強してるね」
階段の途中から凛が言う。
「また多く出てるのか、宿題」
「少なくとも圭介よりはね」
僕を蔑んだ目で見つめる。ついでに口角も上がっていた。中一の教科書にでてきたエーミールの挿絵によく似ている。
これ言ったら100%ぶん殴られるな。
「分からないとこあったら、聞きにこいよ。教えるから」
「いい。ネットで調べる」
凛はそう言い残して、ドスドス上がっていく。
本当に愛嬌のないやつだ。折角、親切にしてやってるというのに、素直に「分かった」とでも言えばいいのに。
いや……、今のがあいつにとっての“素直”なのか?
カチャ。
はつらつとした金属音が家中に響きわたる。カギかけやがった。
僕と凛は年子だ。母さんが28の夏に僕を産んで、その翌々年の冬に凛を出産した。あとから聞いた話によれば、異性の年子はめずらしいらしい。運がいいのか、悪いのか。
ともかく、一年分しか年が離れていないせいか、お互いとっつきやすい相手だった。幼稚園も、小学校も他の兄弟や姉妹よりはずっと仲が良いほうだったと思う。僕の友達はひとりっ子が少ないらしく、なおさら仲が良い僕らをうらやましがっていた。
僕が兄で凛が妹。この関係はずっと崩れないだろうと思っていた。
その矢先――こじれたのだ。
中学受験だ。僕は小五になって、ここらへんでは有名な学習塾のコースに通い始めた。
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