夏は暑い

 奇遇だね、私も、嫌いだよ。

 ああ、と。思えば、この時だろう。僕が、彼女を理解したのは。これは、愚かな僕と僕以上に愚かな彼女の、やり直しのきかない、原点にして通過点でしかない今の物語である。


 数年前の冬、僕は一目惚れをした。今思えば浅はかだったのだろう。でも、当時は本気だった。本気で恋と錯覚、いや、あの時は本当に恋だったのだろう。よく聞くような、恋に恋をした状態ではなくて、本当に、彼女に恋をしていた。

 ずっと探していたものを見つけたような、例えるならそんな感じで、あの時の僕には冷静さが欠けていた。彼女は、とても綺麗な顔立ちをしていた。全てが清らかであると思わせるような清潔さがあって万人を惹き付ける。それでいて、誰にも靡かない、ように見えていた。

 だから、軽率に伝えてしまった。すると、彼女は言ったのだ。「じゃあ付き合う?」と。そうして僕らはあの寒い日に恋人となった。

 一緒にいて気付いたこととして、彼女はかなりまっすぐに歪んでいることが挙げられる。曰く、恋人でいられる期間は梅雨にはいるまでだという。

「夏は、暑いから。一人がいいの」

そう呟いた彼女の横顔には迷いや寂しさは微塵もなくて、ただただ平坦に、寒い日は炬燵でミカンに限る、とでも言うように平然と言ってのけた。きっと、彼女のあの発言に深い意味など無いのだろう。

 彼女について分かったこととしてもう一つ、如何にも聡明そうな見た目の割に頭が悪い。しかも、その事について気付いていない。というか、興味がない。だから他人のことも自分のことも評価ができない。

 ……これ以上は悪口と言われかねないので話を戻そうと思う。

とにもかくにも、僕は軽率に、軽薄に、期間限定の恋人を手に入れてしまったのである。

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