最高の祭り

クロバンズ

第1話

 その日、その場所では『祭り』が開かれていた。喧騒がその場を支配し、人々は大変賑わっている。

 時には人が吹っ飛び、殴り合い、武器を持ちやり合う。まったく持って騒がしい。

 そんな場所を、一人の男が歩いていた。男もまた、背中には武器を持ち、周りの人々のように紅い服を着て、『祭り』に参加していた。


「ああ、楽しいなぁ……」


 男は祭りを心から楽しんでいた。なにせ滅多にないイベントなのだ。日頃味わえない楽しみを、今日は味わうことができる。男の心はワクワクし、浮き足立つ。

 周りに目を向けると沢山の人が、踊っている。額に汗を流しながら、相手と踊っているのだ。

 男が前へ歩いていると、ふと足元にあるものにつまづいた。


「おっと。……まったく汚いなぁ」


 男の足が紅色に染まった。元々すでに男の服装は紅に染まっていたが足まで汚れてしまった。まったく汚らしい。『祭り』にはゴミはつきものだがまったくもって不快である。

 だが同時に美しくもあり、男にはその紅色が芸術的にさえ思えた。


「うあああああああああああああッ!」


 男に向かって一人の女が突っ込んできた。その細い腕で女もまた武器を手にして、男の元へ走る。その表情はとても熱意に溢れているように見えた。


「これはまた……情熱的な人だなあ」


 わざわざあっちから来てくれるなんてなんて情熱的なアプローチだろう。男はそれに応えるように女に近寄った。


 そして——女の首に短剣を突き刺した。


 首から沢山の『紅』が飛び出し、再び男の服を紅に染めた。


「はああ……! 本当に、楽しいっ!」


 僅かに呻き声をあげ、絶命する女を前にしながら、男は心底楽しそうな声を上げた。

 女の生命は完全に消失し、ぴくりとも動かなくなった。

 男は女の死体を見下ろしながら平然とした様子で呟いた。


「でも、これで君も、ゴミになっちゃったねぇ」


 女は、これで『ゴミ』になった。命無きものはゴミだ。この場には今も尚ゴミが溢れている。今も尚、生み出され続けている。


 ——だが、人を殺す瞬間は、最高に楽しい。


 周りでは粉塵が舞い、砲声が響き、血の雨が降る。

 今日は戦争だ。つまり、合法的に人を殺せる日。本当に最高だ。こんな楽しい時間は日常では絶対に味わえない。


「さぁ……誰か僕と踊ろうよ!」


 その時、男の背後から武器を持った男が煙から現れた。


「よくも、よくも俺の妻をッ!」


 その男の顔は憤怒に溢れていた。目の前の男を殺してやる。その思いで満ち溢れていた。


「アハハハハハハハハハハ!」


 赤く濡れた短剣を片手に男は狂気的に笑いながら応戦する。

 短剣と刀が火花を散らす。だがすぐに勝負はついた。

 男の腹に短剣が突き刺さる。


「うぐッ」


 腹から血を流しながらそれでもその男は引かなかった。


「俺はッ! この戦争で生き残って……家族に会うんだぁぁぁぁあああ!!」


「それはそれは。ご愁傷様」


 自らの命が潰える前に男の命を討ち取ろうと、その首に刀を振るおうとする。

 だが、それは叶わなかった。

 男が左手に隠し持った短剣で男の頭蓋に短剣を突き刺したのだ。

 即死だった。

 崩れ去る男を見下ろし、男は再び狂気的な笑顔を見せた。


 目の前の命が溢れ出る光景。人だったモノが人でなくなる瞬間。それが男は大好きだった。


「ああ——最高のお祭りだ」


 足元を血で濡らしながら、男はそう呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最高の祭り クロバンズ @Kutama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ