ブラッドフェスティバル
川で日向ぼっこ
用意はいいかしら。
気になり始めたのはいつ頃だったか。
確信したのはきっと、
そわそわとする視線に、赤くなった顔。
そして怒鳴り声を上げた時。
「お嬢様、本当に殿下のエスコート無しに行かれるんですか?」
心配そうに従者がこちらの顔を覗き込む
「ええ、こんなに面白い日は無くてよ。
見てなさい。楽しい事が起こるから。」
困惑する従者を横目に、私は舞台へと足を降ろした。
「リリ・ミラージェ!貴様との婚約をこの場で破棄させてもらう!!」
突き飛ばされ、殿下に寄り添うようにくすりと笑う娘。
その後ろに彼女を守るかのような取り巻き達が居る。
あぁ、来た。この瞬間が。
内心私はほくそ笑んだ。
「良いですよ。」
「即刻この場から・・・え?」
私が取り乱し縋り付くとでも思ったのか殿下はとても面白い顔をしてらっしゃる。
「わ、私は此処に居るアセロラ・ウーマ令嬢と婚約する!」
「あら!おめでとうございます!
以前より、男爵令嬢とはご関係がお有りでしたものね。」
どうやら予想以上のお馬鹿さんだったようで
多くの目撃者がいるパーティーでこの発言とは。
「な、何を言う!お前はまたそうやってアセロラに酷い事をする気か!?」
貴方に言ってるのですよ。貴方に。
狼狽える様は滑稽です事。
口元に扇子を添える薄ら笑いを浮かべる。
「お前の行動は目に余る!!
学園内でアセロラに陰湿な行為を行っていたな!?
暴行も・・・」
「証拠はお有りになりますか?」
「ふん、アセロラの証言が証拠だ!!」
呆れた。
殿下にしがみつく娘にももう少しきちんと計画を練って欲しいものだ。
「あら、それだけですの。」
殿下の顔がかっと赤くなり、此方にズカズカと近寄ってくる。
目の前で殴られようかと言う時に私は懐からぱっとある物を目前に突きつけた。
「私は証拠、こんなにありますのに。」
殿下は状況がまだ飲み込めていないのか固まっている。
「それで、アセロラ嬢が虐められたのはいつ頃でしたっけ?」
「なっ、何だこれは!」
問えば即座に突きつけた証拠を殿下にもぎ取られる。
すぐ側にいたお付きの者から、即座に紙束を受け取るとペラペラと捲り読み上げていく。
「6月12日、城下町に手繋ぎデート」
紙束に挟めていた物をパラりと1枚投げ捨てる。
すると遠巻きにみていた観客達はザワザワとし始めた。
「何で貴様が・・・!」
「それは認めているような発言ですね。」
ぐっと言葉に詰まる殿下。
「7月10日 中庭で抱擁。」
またパラりと証拠を投げ捨てる。
「7月29日 同じく中庭で接吻。」
また1枚。
投げ捨てる度に面白いくらいザワめきかわ大きくなる。
「そ、それが何と言うのだ!!貴様がアセロラを虐めていたのには変わりない!!」
苦し紛れもいいとこだ。
バン、と書類の束を足元に投げ捨てる。
「こちら生徒、並びに王国の住人からアセロラ嬢に対しての証言と苦情ですの。」
因みに直筆での。
「可笑しいですわね。婚約者が居る殿方と接近したり、結婚されている方の家に押し掛けたり・・・まぁ、他にも色々ありますが無視されるのは当然の事ではなくて?」
「なっ、それはお前が命令したんだろう!?」
「嫌ですわ、例えそうだとしてもそんな問題が起きたのは殿下が浮気してからずっと後ではないですか。」
おほほほ、と笑うと耳元で、
貴方が悪いのですよ。と囁く。
そして例の令嬢を見ると引き攣った顔をし、視線が合えば取り巻き達に怯えたふりをしてしがみついた。
「殿下、お慕いしておりました。以前まで。
慰謝料は弾んで下さいね?」
殿下も引き攣った顔をしていた。
貴方本当にわかりやすいわ。
「これは最後の私からのプレゼントです。」
残りの証拠の紙束を投げ捨てるようにばらまいた。
写真と共に。
殿下の足元に写真がするりと入り込む。
写真や書類を手に取った外野は更に騒ぎ出す。
「なっ・・・」
魚のようにパクパクとする殿下に背を向けて私は颯爽と去った。
馬鹿な人。
大人しかった私がここまでするとは思わなかったでしょう?
あの時、私が彼女との関係を聞いてソワソワとし、顔を赤くして怒鳴りながら否定した時。確信しましたの。
こいつはもうダメだと。
さようなら、殿下。
でも、これからよ。
あぁ、最高だわ。
これから貴方達は、社会的にも消えるのでしょうから。
血祭りは、これからよ。
_________________
その後、私が投げ捨てた写真で会場は阿鼻叫喚。
そうでしょうね。
それには、取り巻き達から既婚の有力権力者までもの彼女との不貞写真が含まれていたのだから。
彼女は会場で写真の関係者達に釣り上げられ、大混乱の末平民に。
取り巻き達はお家に勘当されそれぞれ戦地送りに。
殿下、否、元殿下は何と会場で怒りを彼女にぶつけたのだとか。
その後、国王の怒りに触れ廃嫡。
そして私は、
公爵家もろとも国王への発言権が高くなった。
身の回りもスッキリし、慰謝料で潤ったことで大変清々しい。
あぁ、楽しかったわ。
貴方も楽しかったでしょう?
疑いもせずに彼女と過ごした期間は。
ブラッドフェスティバル 川で日向ぼっこ @katakawa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます