黒い祭り

ハルヤマノボル

第X話

 見渡す限りの黒づくめ。老若男女問わず沢山の人が黒い衣装を身に纏って和気あいあいとしている。あちらに居るのはお隣さんで、こちらに居るのは高校時代の親友だろうか。久し振りに見る旧友は当時の面影を上手に残している成功者と、ただただ老けてしまっただけの失敗者の二つに分けられるような気がする。あいつは前者だ。シブカッコいいっていうのはこういう男のことをさすんじゃないかな。

 こちらに近いところに居るオレの彼女はボディラインを強調し過ぎないが優雅な曲線美を思わせるドレスを身に纏って、見惚れしまいそうな細い指で綺麗なハンカチを丁寧に畳んでは目尻をそれで拭っている。そんな彼女の話し相手は私の母親と父親のようで、二人とも少しくたびれた感じのする黒い衣装を着ている。父親のネクタイは光に照らされて、何とも怪しげな光沢を放っているのが伺える。もしかすると今日の為に新調したネクタイなのかもしれない。そう考えると母親の首元に何気なくある真珠のネックレスはほんものかもしれない。歳を取るってことはいいものがさりげなく似合うようになるってことかな。

 高校を卒業した頃はとにかく流行りの若者ファッションが好きで、有名ブランドのロゴが入ったアイテムを毎月のように買った。それのせいで稼いだ給料も全然貯まらなくて、いつも両親からいつ自立するんだって言われた。

 そんな時に彼女に出会ったような気がする。ひと目惚れってやつ。確か友達の紹介で、いや、友達に誘われた合コンで初めて会った。当時の彼女は大学生で、こっちは高卒。世間的には釣り合わないと思われる関係だったから、オレは大学受験をすることにした。あの時が多分人生で一番頑張った時だったな。

 第一志望から二回り低い偏差値の大学に入学することになって両親に申し訳なかったけど、何故か涙するほど喜んでくれたのが懐かしい。そして彼女にアプローチしたんだ。もう八年前くらいの話になるのか。「君に似合う男になれるように努力するよ」ってキザなセリフ吐いて困らしちゃったけど、思いは届いていたようで交際することになったんだ。

 それから沢山笑って沢山ケンカして、まあよくある若いカップルって関係だったな。一番の思い出はそこに飾ってある二人で行った初めて海外旅行の写真。普通はハワイとかが有名何だろうけど、オレたちはオーストラリアのシドニーに行ったんだ。かっこいいだろ?まあ英語話せなくて彼女に終始頼りっぱなしだったけど。

 その時の思い出で笑えるのが、オペラハウスの近くの大きな橋が見えるところでサンドイッチを食べていた時、解けていた靴紐を結ぶために食べかけのサンドイッチを腰ぐらいの高さのボールに置いたんだ。そしたらどこからともなくデカい鳥が来て、それを持ってっちゃってさ。あまりに突然の出来事で二人とも唖然としていたけど、状況を理解した瞬間に二人で顔を合わせて大笑い。とてもあの時は幸せだったな。

 あ、あそこには元カノが居る。別に忘れても構わないって思っている物事ほど意外と忘れられなくて不思議に思う。初めてを共有した関係っていうのも忘れられない原因になっているのかも。あ、そういう話は苦手だったかな。

 まあこうやって親しい人から懐かしの人まで沢山の人が集まっているのは面白いな。まるで地域のお祭りみたい。オレにとっては最高の祭り。そうこうしているうちにみんな座りだして、立っている父親に注目し始めた。そろそろ始まるみたいだ。そう言えば今から何が始まるのか言っていなかったな。これは死んだオレのお通夜。

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