我々の最高のお祭り大作戦
星 太一
作戦会議であるッ!
「えー、この後何があるか分かってるな!?」
「もう始まってます」
目の前の神社はあの特有のおめでたい朱色で彩られている。
「……そんなのはどうでも良いのだ」
「ハァ」
「重要なのはッ! アレ! そう……食いもんである」
ジュワァ……。
ガリガリガリガリ!! ドドド……。
ジャッジャッ、キン、キン、スコッスコッ、シュッ、ジャアア!!
「「はぁー、旨そぉー」」
思わず目がとろける。
「我々の目的は何としてもあの高級食材達を手に入れることなのだ!」
「おー!」
「うむ、良い返事だ。……それでは作戦会議を始めるぞ。まず屋台の食べ物の確認である!」
「今回のご馳走は『たこ焼き』『お好み焼き』『かき氷』……」
「じゅるり」
「『ポップコーン』に『アイスキャンデー』『ケバブ』『焼きそば』『焼きトウモロコシ』『クレープ』『りんご飴』『フライドポテト』『唐揚げ』……」
「ごくり」
食べ物の山に登り、食べ物の海で泳ぐ姿を想像する。
『あはは、あはは、あはははははは』
『そうら、たこ焼きだぞ?』
『やったな? こうなったら顔面クレープだ!』
べちょ!
なんと幸せな図であろうか。
隊員(と隊長が勝手に呼んでいる)の口から次から次へと零れ落ちる食べ物の名前にますますお腹が減ってくる。
「『フランクフルト』『じゃがバター』『わたあめ』……こんなに食べる気ですか?」
「ん? ああそうであったな、我々の食欲がどんなに無尽蔵でもそんなには食べきれん」
「というよりかはお金持ってませんしね」
「優先度を付けて考えよう」
「隊長が珍しくまともな事を言っている……だと?」
「何か言ったか」
「いえ、何でも」
「ふむ……まあ良い。さて、まずは達成しやすいものから出していこう。ズバリ、地面に落ちやすいものだな」
「それなら沢山の候補が出ますね。フライドポテト、食べるのが遅くて溶け落ちたアイスキャンデー、クレープ」
「重くて皮の破れた大きな鶏の唐揚げ、食べ進めるにつれて不安定になるチョコバナナ」
「何と言っても……?」
「「沢山零れるポップコーン!!」」
クルックー、クルッポクルッポ。
「あ! 隊長、敵のスパイです!」
「このやろ、ハトオォォォォオオオ」
ばさばさばさばさっ!
「きゃつらめ……あいつらもポップコーンを狙っておるのか」
「それだけじゃなく、他諸々の落ちたものも拾おうとしている可能性は非常に高いです」
「うぬぬ、こしゃくな」
「悪代官ごっこですか?」
「変なツッコミで話の腰を折るな! ……じゃなくて。我々はこれでもあのハトよりも一応知能が高い。それなりの策を練って対抗するより他は無いだろう」
「落ちたもの以外を行くんですか」
「もちのろんろんである」
「……何ですかそれ」
「作者の持ちネタである」
小説的に際どい台詞を言うんじゃない! (by作者)
「とすると……どうやって」
「ううむ、出禁にならない程度で、しかし丁度良く迷惑になりつつ、美味しいものにありつく方法を考えねばなるまいな」
「……? 難しい言葉を連呼された所で分からないですよ」
「要は高度なテクニックで、仕方なくご飯を頂戴させるのだ」
「簡単に言え」
隊員は偶にマジギレする。
「例えば。普通なら人のクレープをがしっと奪い取ったり、店先のをつついたり、鉄板にうっかり飛び込んで唐揚げ屋に売られることも少なくない」
「まあ……それが我々ですからなぁ」
「しかぁし!! ある時、E○レの地球ド○マチックを見てたらな!? お猿がある賢い方法を使ってご飯を貰っていたのだよ!」
「奇跡○星の間違いでは?」
「そういう事はどうでも良いのである!」
「バカー」
「何だって?」
「いえ、何でも」
「ごほん! ――と、言うわけだからな。我々もそれを真似ようと思うのだ」
「期待しないで聞きますが、それは一体何ですか」
「ふふふ……よくぞ聞いてくださいましたぁ! その名も! サングラス大作戦!」
「……」
隊員の顔が語っている。
矢張りな、と。
「おでこに乗ってるサングラスをばっ! かけてあるサングラスをばしっ! とまあこんな風に奪い取り、『返して欲しけりゃその手にある物をよこしな』というこったな!」
うははと笑う隊長の肩を隊員がぽんぽんと叩く。
「もしもし、隊長。一つお聞きしますけど」
「はい何ですか」
「こんな夜中にサングラスをかけている馬鹿はどこにいるんですか!!」
「……」
目玉がきょろっと上を向き、何か考える。汗が無意識に流れ落ちてゆく。
粋な言葉を捻り出そうと必死だ。
「あれだ……」
「何ですか」
「お○松さんの……」
「もう小説的に際どいネタは止めましょう!!」
「じゃあどうすれば良いんだよォオオ!!」
「それしか考えてなかったんですか!?」
「そうだよ!! もう後はお面剥ぎ取るしか!」
「そうやって去年神主に藁箒でぼっこぼこにされたのどなたですか!」
「我ですぅ!!」
クルックー、クルッポクルッポ。
「ぐあぁぁああ、ハトオォォォォオオオ」
ばさばさばさっ!
「ぐうう……何だよォ、皆で笑うのかよぉ……」
よろよろと二、三歩歩いた所でガクッと突っ伏した。
「……」
「何でだよ……確かに金は持ってねえよ。だって高えじゃんよ……他店とあんまクオリティ変わんねえ癖に200円位高えじゃんよぉ ……」
「こらこら」
「ベビーカステラに至ってはドラ○もんが偶に怪獣ガ○ラみたいになってる癖に500円使わせてくるじゃんかよぉ……」
「怒られますよ!?」
「でも、でも……我々にとっては全部ご馳走じゃないか……」
「……」
「石畳に落っこちたポテトを初めて食べた感想をお前は知らないだろうな。砂が混じってじゃりじゃりしてたけど凄い旨かったのだ。初めてバター醤油味の粉がついた揚げじゃがいもを食った時の感動と言ったら……それはそれは凄かったんだから」
「……」
「天国だと思ったんだよ。この朱色の煌めき、笑い声。美味しい匂いの煙に威勢の良い呼び声」
「……」
「我、美味しい物を食べたかっただけだったんだ……どこを間違えたのかな」
「『どこを間違えたのかな』ですか……。ふん、お決まりの台詞ですね」
「くぅ……」
何も言えない。
「……それは隊長を馬鹿だと笑った奴らの台詞ですよ」
「隊員?」
悲しみに揺らめく瞳を持ち上げ、自分を見下ろす彼を見る。
「忘れたんですか? 僕もその揚げじゃがいも食ったことあるんですよ。しかも、僕のは温かい、ほくほくのやつです。隊長が持ってきてくれたんじゃないですか」
「……、……感動した?」
「感動しました。だから隊員やってるんです。そのエピソード無ければあんたを隊長だなんて呼んでませんよ」
「ひどいっ!」
「ひどくて結構です」
相変わらず冷たいが、その芯がじんわり優しい隊員に隊長の顔が緩む。
「ねえ、隊長。石畳のポテトより沢山の旨いもん食いに行きませんか」
「どういう事だ?」
「あれです、お持ち帰りされるあのパック」
隊員が指したのは人がその手にぶら下げている半透明のビニール袋に入ったずっしり重たいパック。
輪ゴムで無造作に閉じられた蓋の隙間から美味しそうなとろみを持たせたソースが溢れ出ている。
「そ、それは難易度Fとも言われる超ムズミッションじゃないかっっ! な、ななな、何を言い出すのだ!」
「何を基準に難易度決めてるかは知りませんけど、あれはきっとむちゃくちゃ旨いですよ」
「そ、そうであるが……うぅむ。これはもう一羽連れてくるんだったな……」
「何でですか」
「だって、『三人寄ればもんじゃ焼き』というじゃないか」
「三人のパーティーのメニューを勝手に決めないで下さい……それに」
「それに?」
「あれは『オムそば』です」
「な、何じゃそりゃっ!?」
「ふわっふわの卵を鉄板の上で焼いてその中に焼きそば入れるんです」
「ごくっ……」
「最後はとろっと甘辛いソースをはけでこれでもかって程塗ってパックに詰めるんです。中の豚肉の端っこが鉄板で程よく焦げたあの食感がたまらないとの噂です」
「えええ……何しょれ美味しさそう……。でも、あんなのどうやって?」
「簡単ですよ。あのビニール袋の下をくちばしでこっそりつんつんつついて、破るんです。人間、落ちた物は食わないでしょう? そこにすぐに群がって食べれば良いんです」
「め、名案! ……それにしてもどうして、そんな案をぱっと思い付けたのだ? お前は天才だ!」
「よしてください。ただ、隊長に恩返しがしたくて、ずっとこの機会を狙ってただけです」
「……!」
少し年いったお馬鹿さんの瞳が感動に潤む。
「今度は僕が隊長に食べさせる番ですから」
「隊員……」
「――問題は敵スパイです。絶対おこぼれを狙いにくるに決まってます」
「そんなの、そいつらにも食わせてやるのだ!」
「隊長!?」
驚きに口をあんぐりさせる。
「仲間に引き入れてしまえばもっと色んな作戦が使える。その時は隊員、お前が参謀になるのだ」
「……!」
若者の瞳が無邪気に煌めいた。
「あ! 見ろ、またずっしり重たいオムそばとやらがビニール袋に入れられたぞ!」
「チャンスですね!」
「うむ!」
朱色の煌めき、月明かり
数多の笑顔に紛れては
こっそりつんつんつつきます
我らはご馳走頂き隊!
「行くぞ隊員! ハトも着いてくるなら着いて来やがれ! である!」
クルッポクルッポ。
「こそこそ突撃イィィイ!」
「はい!」
二羽のカラスがオムそば目がけて羽ばたいていった。
彼らの最高のお祭りはもうすぐ始まる。
我々の最高のお祭り大作戦 星 太一 @dehim-fake
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