幼馴染みで悪魔な騎士は、私のことが大嫌い
編乃肌/ビーズログ文庫
第一章 失恋編
その①
「
複数の女の子に囲まれて、
明確な
ピシリとヒビ割れた音が聞こえたのは、私の
──大好きな
忘れたくても忘れられない、遠い日の最悪の
「スーリア、ちょっといいかい?」
「どうしたの? 父さま」
書庫で資料の整理をしていた私は、満面の
眼鏡に灰色のタイを身につけた仕事姿の父は、
……たまに少々、親バカだが。
「
「旦那様が?」
「ああ。スーリアにとびっきりいい
「えっと……?」
「
にこにことすこぶる
なにがなんだかわからないまま、使用人のお仕着せである
現在十八
領主様の
……
私は幼い頃に、思い出すのも
私には恋人などいなくとも、いつだって呼べば現れてくれる、少し特別な友人もいる。
「ねぇ、スー。今から『リョーシュサマ』のところへ行くの? ボクもお話ししていい?」
「そうね、たぶん旦那様なら、
「えー」
なにもない空間からポンッと現れたのは、私の友人である水の
宙を
そんなウォルは、水を生み出し自在に
──『精霊』とは、自然を
そしてその精霊たちと心を通わせられる人間を、『精霊使い』と呼ぶ。
精霊使いは先天的に持つ『
私の住む、周囲を山々に囲まれた小国『ナーフ王国』には、古くから精霊たちが住まう土地として、『精霊
そしてその精霊と
「じゃあお
「それもダメよ。まだ仕事中だもの」
「ダメばっかり!」
「家に帰ったら、ウォルの好きな
ウォルは
──私が自分の力に目覚めたのは十七の時。
私の呼び掛けに、最初に応えてくれた精霊がウォルだった。
精霊使いと精霊は
でもやっぱり、初めて友達になったウォルは特別だ。今では相棒と言ってもいい。
「さて」
パイのレシピを頭でなぞりながら、着いた執務室の
周囲の
ちょうど
「急に呼び出してすまないね、スーリア」
「いえ、それでご用件はなんでしょう?」
後ろに
私の生まれ育ったアルルヴェール領は、王都から
「
「は!?」
予想だにしなかった宣言に、私は
『精霊姫』とは──三年に一度、精霊たちを
精霊使いには男性もいるが、この役目は
国の最北に位置する『
精霊姫に選ばれるのは大変、たいっへん、
だけどなんで私が!?
「精霊姫って、貴族のお
「
王都に
私も昨年、旦那様が(知らない間に)教会に
精霊姫は、それよりさらに厳正な審査のもと、あらゆる面を
ちなみに前回は、高い霊力と歴代
その中に、霊力は平均、特筆すべき能力はなし。容姿も十人並みで、くすんだ金茶の髪に、灰交じりの
そんなすべてにおいて
なんかこう……残念でしょうが!
「こうして正式な任命書も届いているよ」
旦那様が
私は絶句してしまう。
「
「そ、それもそうかもしれませんが……」
「任務を達成すれば、国から
「それに『精霊姫』にふさわしい条件を、君は十分に満たしていると、私は思うけど」
「美貌も凜々しさもありませんが!?」
「そんなものは二の次だよ。大切なのは精霊との
不意に
「自信を持ちなさい、君は素晴らしい精霊使いだ。……さて、詳しい話は後にして、そろそろ君の相棒を呼び出してくれ!」
急に立ち上がった旦那様は、生き生きと私のもとに歩み寄る。
旦那様は自他共に認める『精霊愛好家』だが、霊力が強くなく、気配をぼんやり感じる程度らしい。そのため精霊と交流するには、他の精霊使いの力を借りる必要がある。
基本的に精霊は、霊力のない者には姿も見えないし声も聞こえない。でも精霊使いが力を貸せば、一時的に精霊と会わせることができるのだ。
「またこれですか」と
「こんにちは、リョーシュサマ! おひさしぶりだね!」
「おお、ウォルくん!」
すぐに現れたウォルに、旦那様は
「さぁ、そこのソファでお菓子を食べよう。スーリアも
「意図的にそれを用意させていたんですね……」
「やった、リョーシュサマ大好き!」
その言葉にまたデレデレとなる旦那様に、私はこっそり
結局、まともに話を聞けたのは、ポットのアプリコットティーが空になってからだった。業務中にサボっているようで気が引けたが、屋敷の主が誘ったのだから別にいいか、とすぐに思い直した。
ウォルの水状の尻尾は、人が
ウォルに夢中な旦那様からなんとか聞き出した情報によれば、王都の精霊教会から、
使者と共に私は教会まで赴き、そこで儀についての
──問題は、私を迎えに来る使者、別名『精霊姫の護衛
精霊女王との謁見を許されるのは、精霊姫ともう一人。
精霊姫に選ばれた女性を護衛し、共に森の奥まで
なお騎士は霊力よりも護衛の
なぜか精霊姫としてご指名を受けた私のもとにも、護衛騎士が
「まさかアイツじゃないわよね……」
固く
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