最高のお祭りは作るモノ

@r_417

最高のお祭りは作るモノ

 静まり返る教室に響くチャイムの音。

 そして、その音に急かされるように今日も【その時間】はスタートしていく。


「起立、礼—」


 教師への挨拶よりも遥かに響く椅子を引く音色で否が応でもテンションが上がる。学生の本分が勉強だと言われていても、やはり自由度が高い放課後に勝る時間もまたないだろう。

 そんなことを思いつつ、三々五々と思いのまま気ままに動くクラスメイトを横目で見つつ、机に突っ伏せる。そんな俺の様子を見ていた幼馴染の紫音(しおん)が苦笑しつつ、チョコ付きプリッツェルの箱を渡してくる。


「お疲れ、優也(ゆうや)。とりあえず、補習回避おめでとさん」

「ああ、紫音。お前のおかげでマジ助かった……」


 幼馴染の紫音は学年一の優れた頭脳の持ち主で、補習回避ばかり考えている俺とは大違い。だけど、十七年もともに過ごしていれば、出来こそ大差がつくもののフィーリングはシンクロする一方だったりして。紫音は俺と連むことを良しとしている。っつか、俺と連める時間を確保する努力を惜しまないでくれている。現に今回も、そろそろ放課後補習受講者を決める小テストがあるはずだと紫音が予想し、小テストのヤマを張ってくれたおかげで命拾いしたのだから。


「ふふふ、どういたしまして」


 心底感謝する俺に対し、爽やかな笑顔を見せる紫音は悔しいけれど、いい男だ。そんなことを思いつつ、紫音とダベっていると周りに人が集まってくる。

 ある人はお菓子を片手に、またある人はジュースを片手に。またある人はトランプを持ち、紫音の周りに集まってくる。

 人を惹きつける魅力を持つ紫音。そんな紫音の傍にいる俺は、いつだって毎日が最高の祭りに思えていた。


 それは美味しい食べ物が周りに置かれた環境だからというわけではない。

 紫音の良さを知り、紫音を慕う、人の良いクラスメイトと毎日楽しく過ごすことが出来る事実が最高のお祭りに思えたのだ。


 人生の中の特別なイベントこそ、最高のお祭りという認識がされがちだ。

 だけど、いつも笑顔が絶えない毎日が続く幸せを味わえていることほど、最高のお祭り気分もまたないのではないだろうか。


 そんなことを思いつつ、俺は今日もまた最高な放課後を満喫する。

 取り立てて珍しいこともしないけど、いつもと変わらない笑顔で溢れる時間を過ごす。


 俺は確かに紫音に比べて、学業面では遥かに劣ることだろう。

 だけど、紫音の良さを知り、紫音と友で居続けることを選択し、紫音と最高な放課後を過ごす価値を見出せてる事実に気づいている限り、俺は自分を卑下することもまたないだろう。


 最高のお祭りと一緒だ。学業面だけで、俺の価値は決まらない。

 俺の認識一つで結果は如何様にも変化すると知っているから、これからも胸を張り続けることだろう。


 そんなことを思いつつ、授業終了後に紫音が差し入れしてくれたチョコ付きプリツェルを俺がにこにこしながら頬張る姿を、やっぱり紫音も楽しそうに見つめてくれていた。


【Fin.】

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