夢の中で笑う君

月天音

一日目

待っていたのだ、ずっと待っていたのだ。あの夢の日々を取り戻すために。

 俺は口を開いた。




◆◆◆◆




「ここはどこだ?」


 俺は今さっきまで自分の部屋で寝ていたはず、それなのになんでこんな所に……俺は今さっきまで眠っていたんだけど。

 ふと思ってほおを抓ってみる。


「痛くない。という事は夢か」


 幾ら抓っても痛くないというのは変な感覚だ。

 取り敢えず今いる空間を見回してみる。ぱっと見は白い部屋のようなもので、机や冷蔵庫、クッション……俺の好きなお菓子まである。そして最後に、白い空間の真ん中で高校生ぐらいの女の人が体育座りで膝に顔を埋めている。

 この夢が始まった時からこの女性の泣き声が聞こえていたのでいる事は分かっていた……でも出来ることなど何も無いのだ。


「だ、大丈夫ですかー?」


 女性経験が皆無な俺に、泣いている女性の対応は無理なので、取り敢えず大丈夫か確認する。

 女性はこちらを見ることもしないが、声をかけてから少し声が大きくなったような気がする。途中からばかとかヘタレとか聞こえてくる。


「ど、どうしたんですか⁉︎何処か痛いんだったら病院に……」


 俺には女性が泣いている時に慰める方法など知らない。抱きしめる?無理無理、話しかけるので精一杯。原因を探す?探しても解決できない。ハンカチを渡す?そんなに女子力高く無いんだよ。

 てな訳で打つ手がない。別にヘタレだから話しかけないわけではないが、俺は泣き止むのを待つとしよう。


「これ本当に夢なのかよ……」


 このままおどおどしていてもしょうがないので、周りの状況を確認する。

 広さは大体高校の教室2、3個ぐらいで広めで高さはかなりある。地面も白いけど靴を履いてないし、ふんだ感触は木に近い。

 何故こんな夢を見ているのか分からないけど、ここまでクオリティが高いと嫌がらせの域だ。普通ならここまでクオリティが高いと周りを探索したいと思うものだが、何故かその気が怒らなかった。


「本当に夢だよな?」


 俺の呟きは女性の泣き声にかき消されていった。

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