最高のお祭り

エリー.ファー

最高のお祭り

 えぇ。どうも、どうも。

 今日のお客様はどうにも良い方ばかりだと聞いてるんですけども。

 えぇ。

 あの、お願いしますよ。

 次の師匠方に傷ものの舞台なんてねぇ、そんなことさせられませんから。

 どうかね、その笑って頂いて。

 そうですよ、こんなところでお願いしちゃって、どうか皆様のお力添えで楽しい時間にしましょうよ。えぇ、例え、全然面白くもなくて聞けば聞くほどあくびの出るような時間だったとしても、ですよ。

 笑ってください。

 えぇ。

 お金払ってきて、しかもつまんなかったって、そんなのは皆さんだっていやでしょう。

 あたしだっていやですよ。

 だからね、こういう時は。

 お金を払ったんだから、面白いはずだとね、そう、自分に言い聞かせてどうぞ楽しんで頂ければと思うんで御座いますが。

 えぇ。

 最高のお祭りなんていいますと、四年に一度のオリンピック。

 おっと、こいつは前回のでしたね。

 やめておきましょうか。ネタの使いまわしは嫌われちまうんで、えぇ。

 実はあたしの地元では、随分と有名なお祭りがありましてですねぇ。

 あたしを見て頂ければ分かることだと思いますが。

 リオのカーニバルっつうんですが。

 えぇ。

 あの、お客さん。

 ここ、笑う所ですよ。

 そりゃあ、日本人離れした顔だとか言われたりはしますよ。

 だから、笑わなかったのかなぁ、皆さんねぇ。でも、ほら、師匠方からはどっちかって言うと、日本人離れっていうか、地球人離れしてるぞってね、言われてますから。

 きっとブラジルとかじゃなくて、火星のお祭りの話なんかしたら皆さん笑って頂けたんじゃないかって。

 えぇ。

 えぇ。

 その。

 お客さん。

 今のも、笑う所ですよ。

 分かってます。

 お笑い知ってますか。

 だめですよ、お笑い分かってないのに、寄席来たら。

 笑ってくれないってんで、噺家が汗かいちまう。

 おい、お前よぉ。

 なんだ、急に。

 最高のお祭りってのは何か知ってるかい。

 最高のお祭りかぁ、あぁ、徳島の阿波踊りとかどうだ。

 いやぁ、あんなのは駄目だよ。

 じゃあ、何が最高のお祭りなんだ。

 リオだよ。リオ。

 リオのカーニバルか、お前。随分ワールドワイドに出たねぇ。

 いやぁ、見に行ったことあるかお前。

 ないよ。

 いいか、リオのカーニバルっつうのはな、滅茶苦茶綺麗なおねえちゃんたちが、おっきいおっぱいとおっきいお尻を揺らしながら笑顔で踊る。そういう最高に、なんだ、こう、体とか心がほかほかするお祭りなんだよ。

 踊ってねぇのに、ほかほかするのか。

 バカ野郎、考えても見ろ。目の前をそんなおねえちゃんが来てそれを日本でじっと見てたりしたらなんて思われる。

 変態。

 だろう、でも、リオのカーニバルならむしろ見ない方が失礼なんだよ。じっくり見て、にやけて、そうやって楽しむもんなんだよ。

 本当にそうなのかぁ。

 そうなの。

 スケベな日本人観光客がそうやって楽しんでるだけじゃねぇの。

 お前はつまんないこと言うねぇ。

 でもさ、お前嫁さんがいるんだろう。

 まぁ、なぁ。

 その嫁さんの体なんかいつだって見れるだろ。

 馬鹿言ってんじゃねぇ。もう見飽きちまったよ。

 失礼なこと言うなぁ。

 それにだぜ、結婚しちまってから他の女ともろくに話せないし、そりゃ夜のこともあるけどよ、もうこっちが疲れてるのに二度三度って、もうくったくたよ。全部吸い取られちまう。

 そりゃ、大変だな。

 夫という役割に閉じ込められて、結婚っていうもんに閉じ込められて、世間の目っつうもんのせいで何から何まで閉じ込められて。

 お前の人生はリオのカーニバルから程遠い、檻のカーニバルだな。

 おあとがよろしいようで。

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