第34話 事件
【まえがき】
いつも『桃の花をあなたに』を読んでいただきありがとうございます。
今回の内容は胸が苦しくなる展開があります。
それでは本編をどうぞ。
ーーーーー
その日の天気はどんよりとした空模様。まるでこれから起こる事を暗示しているかのよう。
「
「教えてもらった所が丁度出てきたからなんとか大丈夫だと思う。ありがとう
「どういたしまして」
昨日一学期の期末テストが終わった。彼に勉強を少しずつ教えていた甲斐があってなんとかなったみたい。
「ねぇ、今日雨降りそうだけどお昼どうする?」
「そうだね、教室でいいんじゃないかな」
「おっけー」
梅雨に入ってからあのベストスポットで食べられなくなったので、私と彼は教室で昼食を食べる事が多くなる。
それがいけなかったのか……私にはわからない。
………………
「見ろよアイツ、また
「なよなよしやがって女子とイチャつくとかムカつくよな……そうだっ! おいちょっと耳貸せよ……」
ヒソヒソッ
「……くくっそいつは楽しみだ」
「次の体育が待ち遠しいな……」
………………
こんな言葉を廊下で話していたとは誰も知らない。
「その前に体育があるよねー」
「そうなんだよ……まぁ
「千姫は今日も見学?」
「まぁね、あんまり泳ぎは得意じゃないし……それに」
「それに?」
「いや、今はいいや。夏休みに入ったら話すよ」
「……うん、ゆっくりでいいよ」
彼からの話しはゆっくりでいい。私達は同じ歩幅で歩いて行こうと決めたから。その時が来るまで待つよ。
………………
…………
……
「んじゃ、私は更衣室こっちだから」
「行ってらっしゃい雪音、気をつけてね」
「お母さんかッ!」
「あははっ」
「ふふっ」
私もだんだん素の自分を出している。最初の頃は女の子らしく振る舞わなきゃって思ってたけど、ありのままでいいのだ。そしてそれを受け入れてくれる千姫の事が……すごく好き。
ウチの学校のプールは室内に2つありそれぞれ分かれている。1つは水泳部が使用するやつ。もう1つはシンクロナイズドスイミング部の深いプール。
それを利用して女子と男子で別々に授業が行われる。男子の目を気にしなくていいのはありがたいが、彼に見て欲しいと思う自分もいる。
(まっ夏休みにいっぱい見せつけてやる)
このプールが分かれていた事が原因で、あんな事になるとはこの時の私は知る由もない。
授業が始まると、泳げる組、泳げない組に分かれてスタートする。監視の先生も待機してくれているので何かあればすぐ対応してくれる。
意外に思うかもしれないが私は泳げる組。そして私のグループで泳げないのは
「フフ……かおる今日こそ決着をつける!」
「言ってろ! 返り討ちにしてやるぜ」
2人は楽しそうにスタートする。
(いやこれ授業だから……)
授業が終わりに近づく頃、私は少し休憩がてら男子達が授業をしているシンクロのプールを覗いてみた。
「千姫はやっぱり見学か……」
私がこの時気付いていれば良かった。彼に敵意の視線を向けている3人組とあの嫌味な体育教師に……
………………
…………
……
そして授業が終わり着替えを済ませて教室に戻る。
「はぁ疲れたねー」
「かおる……私の勝ち」
「何言ってんだ、私の方が5メートル多く泳いでたわ」
「誤差……」
「ソラの負け惜しみ」
4人でそんな会話をしていると男子達が戻って来た。しかしその中に千姫の姿はない。
そしてチャイムが鳴り授業が始まる。
「
英語教師の男性の先生が彼の名前を呼ぶ。そして例の男子達がニヤニヤしながら話す。
「さぁ? まだプールにいるんじゃないんスか? なぁ?」
「あぁ、なんか泳ぎ足りないって言ってたぜ?」
「くくくっ」
その言葉を聞いた私の頭は混乱する。
(えっ……待って、千姫は見学だって……)
嫌な予感がする。
そして私より先に動いたのはソラ、かおる、咲葉だ。神速の速さで教室を出ていく、私もその後を必死で追いかける。
「待って……ねぇ……」
「雪音は職員室に行け、それから教師を連れてこいッ!!」
「う、うん……わかった」
かおるから聞いた事がない怒声が聞こえる。それに
「咲葉はオヤジさんに連絡ッ! ソラ、何かあったら頼むぞ」
「えぇ」
「任せろ必ず消す」
去り際にそんな言葉が聞こえてきたが頭に入ってこない。
「はぁ……はぁ……先生ぇ……千姫がプールから戻ってきません」
「千姫?」
「はぁ……ふぅ……お、鬼神くんですっ……」
息切れを起こして気が動転して職員室に駆け込むと担任の先生がいた。そして事情を説明すると職員室にいるほとんどの教師がプールへ駆け出す。そこには体育教師の姿はない。
そして私は念の為にと保健室の先生も呼んでくるように言われた。
急いでプールに到着すると既に現場は大混乱と怒声の嵐。
「貴様ァァァァァッ!!」
「ひぶっ…………」
聞いた事のないソラの声。
例の体育教師に馬乗りになりボコボコにして、それを数人の教師が必死に止めている光景が広がっていた。
そして教師達がプールの中に潜り必死にもがく。
「おい、早くしろッ」
「くっ……ぶは……はぁ……重くて持ち上がらん。誰か手ぇ貸せぇぇぇ」
「早くっ、早くしてぇぇ」
「おい!急いで救急車呼べッ!」
「もう呼んでるわよッ!!!」
恐る恐るプールサイドに近づく私。
「雪音ッ見るな!!」
プールの中からかおるの声が聞こえる。しかし私はその声を無視して中を覗き込む。
「………………ぇ」
プールの中を見た私の頭は闇に包まれたように暗く塗りつぶされた。
「………………せん…………き……」
彼はプールの底に沈んだまま…………浮かんでくる事はなかった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
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