桃の花をあなたに
トン之助
プロローグ
私は夢を見ていた。
小さい頃の夢だろうか…
暖かな潮風が肌をかすめ、私は自分の手を引かれながら白い色合いの建物が多く並ぶ路地をゆっくりと進む。
(男の子の手だ……)
ほんのり顔を赤く染めながら俯きながら歩く。時折、階段で躓きそうな所を支えてくれたり、退屈しないようにだろうか振り返りながら微笑んでくれる。他愛のないおしゃべりでクスクスと笑い合う。
(あと少し……この道を抜ければ)
海の見える丘に到着すると、そこには大きな桃の木がある。太陽の光が真上から降りそそぎ、キラキラとしたその場所は特別に見えた。
私と彼のお気に入りスポット。
木の下で持ってきたサンドウィッチを一緒に食べながら、色んな話しをしていた。話の内容は曖昧であまり覚えていないが楽しかったイメージしかない。
ただ……顔や名前を思い出そうとするとモヤが架かったように思い出せない。唯一覚えているのは、目がとても綺麗だと言う事。
特別に感じたのは、その景色だったのか、それとも……彼と一緒だったからなのか……
短いようで長く感じたあの瞬間。ずっと続けばいいなと思っていたあの時間。
私は恋をしていたんだと思う。
彼が立ち上がり、私に背を向けてスっと歩き出す。突然の事で私も慌てて立ち上がり後を追おうと手を伸ばす。だが掴めない、どんどん離れていく。必死に声を出そうとするが声にならない。
(待ってッ!!置いてかないでッ!!ねぇ!待ってよッッ!!)
夢の目覚めはいつだって突然だ……
「待っ……!!」
……カチッカチッカチッ
秒針が進む音が聞こえる。
「………またあの夢かぁ」
まだ少し肌寒さが残る朝方だと言うのに、まるで運動をした後のようにじっとりと汗をかいていた。
この夢を見るのは一度や二度ではない。数えるのもおかしくなるほど見た気がする。
その度に、いつもあの場面で夢は終わる。
「はぁ〜」
ズキズキと痛む胸を押さえながらゆっくりと深呼吸をする。夢を見たあとは毎度の事ながら、ズキズキなのかドキドキなのか分からないくらい胸が苦しくなるのだ。
「あの子はだれなんだろう……」
桃宮雪音(ももみやゆきね)は独り言を呟きながら、時計を見る。時刻は午前六時。
学校まではまだ時間があるが、もう一度寝るには微妙な時間である。汗をかいて部屋着がじっとりと濡れている。シャワーを浴びるために着替えと下着を持って部屋を後にした。
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