猫な彼女の心遣い

@山氏

猫な彼女の看病

 俺は体の熱さを感じながら、ベッドで寝ていた。

「んん……」

 体を起こすと一瞬眩暈がする。

「啓人、大丈夫?」

「大丈夫だよ」

「熱測った方がいい」

 咲弥が顔を近づける。そしておでこをつけた。

「んー……わかんない」

 俺から離れると咲弥は体温計を持ってきて、服の隙間から腕を突っ込んで俺の脇に差し込んだ。

 しばらく待つとピピッと電子音が聞こえ、体温計が止まったことに気付く。

「何度?」

「うん、微熱だね」

 体温計は37.2℃と表示されている。

「寝てないとダメ」

 咲弥は俺をベッドに倒すと、キッチンの方へ向かった。

 微熱くらいで大げさだと思いながら、俺は目を閉じる。

 

 

 額にひんやりとしたものが乗っている感覚がある。目を開けると、咲弥が心配そうな顔をして俺を覗き込んでいた。

「どう?」

「ありがと、楽になった」

 濡れタオルを持ってきてくれていたようだ。

 俺は手を伸ばして咲弥の頭を撫でる。

「うつるといけないから、今日はもう帰った方がいいよ」

「いい。一緒にいる」

「ええ……」

「もしうつったら啓人に看病してもらうから」

「なにそれ」

 笑いながら俺は目を閉じた。

「おかゆ作ってくる」

 咲弥が離れていく音が聞こえ、キッチンからコンロを点火する音が聞こえた。

 少し寝たからか、目覚める前よりも体はだいぶ軽い。俺は立ち上がって、咲弥の方に向かった。

「なんで起きてきてるの」

 エプロン姿の咲弥が頬を膨らませて俺を睨む。

「さっき少し寝たからね」

「ダメ。ちゃんと横になってて」

 無理やり振り返らされ、背中を押される。そのまま部屋まで連れていかれ、布団に寝かされた。

「ちゃんと寝てて」

「はいはい」

 しばらく寝転がって、携帯を見たりしながら時間を潰す。

「できた」

 咲弥がお茶碗を持って部屋に入ってくる。俺は体を起こしてベッドに腰かけると、おかゆを受け取ろうとした。

「食べさせてあげる」

 俺の隣に腰かけるとレンゲでおかゆをすくい、ふーふーと少し冷ましてから、俺の口元に近づけた。

「いいよ、自分で食べるから……」

「無理しちゃダメ」

「微熱くらいで大げさだよ……」

 引き下がろうとしない咲弥に根負けして、俺は口を開けた。

「はい、あーん」

 言いながら、レンゲを口の中に入れられる。

「美味しい?」

「うん、美味しいよ。ありがとう」

 シンプルなおかゆだが、温かくて美味しかった。

 俺は咲弥の頭を撫でて微笑む。

「えへへ」

 嬉しそうに咲弥は笑うと、次の一口を用意した。

 結局、おかゆを食べきるまで咲弥に「あーん」され続ける。

「ごちそうさま」

「うん」

 咲弥はお茶碗をキッチンに運ぶと、すぐに戻ってきて俺を寝かせた。そして、俺の横に入り込んできた。

「私も寝る」

「風邪うつるよ?」

「いいの」

 俺に抱き着いて離れようとしない。

「ありがと、咲弥」

 咲弥を抱きしめ、俺は眠った。

 次の日、咲弥が熱を出して俺が看病することになるが、それは別のお話。

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