①-4

「義堂、こんなのが届いてるぞ」

 犬飼が控室に座る義堂のもとに封筒をひらひらさせながら入ってきた。犬飼は、義堂のことを最初から〝多賀〟だと思っているはずだが、どうしたことだろう。

「多賀、でしょう」

「ああそうか。すまない」

 にやにやしながら、目の前に封筒を投げる。差出人がなく、宛名に義堂真実と書かれただけの、白い封筒だった。

「……」

「そう、書いてあったもんでな」

 義堂は黙って封筒を破る。破りながら裏返すと、差出人が書かれており、それは信藤語、となっていた。

 形のいい眉を少しひそめて、中に入っていた四枚の便箋を取り出す。

 文を読み始めた義堂の表情は固いままで、最後まで読み切った。ほぞを噛み、じっと何かを考えている。

「どうする。そいつと交渉でもしてこようか」

 犬飼が言うと、やっと、息を吐いて首を横に振った。

「いいわ。放っておいても、構わない。安倉がどうにかしてくれるでしょ」

「へえ」

 嘲笑うかのように目を細めた犬飼を、義堂が睨む。

「何?」

「別に。随分信頼してるんだな」

「当り前じゃない。貴方も、信用してるわよ」

「そりゃあ光栄なことで。じゃあ一発、ヤラしてくれるか?」

「それが貴方の本当の望み? だったら相手してあげてもいいけど、私たちの期待を裏切ることになるんじゃない?」

「ふん」

 義堂にさらりと躱されながら、悪い気はしない、というように口を歪めた。

「貴方だって、護を信頼してるじゃない」

「ま、俺はあんたよりもあいつに惹かれて、仲間になったからな」

「あらそう」

 犬飼の告白にも、驚く様子もなく義堂は返す。

「わかってたのか」

「当たり前でしょ。護に聞かされてない? 私は、人の希望が、把握できるの」

「それを頭から信じるつもりもないけどな。だとしても、お前の魅力はわかってるつもりだが」

 手を振り、控え室から出ていく。

「何かあったら、言ってくれ」

「ちょっと待って」

 その犬飼を止め、義堂が眼差しを向けた。

「何だ?」

「護を探してきて。言わなきゃいけないことがあるの」

「了解。じゃあな」

 今度こそ、部屋を後にした。

 残された義堂は、じっと便箋を眺めた後、丸めて、傍らのゴミ箱へと投げ捨てた。

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