③-2

 安倉護。

 彼は、多賀の死を、どう思っているのだろう。

 義堂の裏。多賀と同格。

 勿論言葉だけで、多賀よりその価値は何倍も重い。

 彼女の願いを実現させるために、実働の全てを担う男。

 あのふたりには、どのような絆があるのだろう。どうしてあそこまで彼女に奉仕できるのだろう。

 彼女の中で、人は利益のないことはしないはずだ。安倉も、義堂といて得をすることがあるから、一緒にいる。そうでないと、義堂は安倉を信じられないはずだ。

 ――信じているのか。

 はたと気がつく。心の底で、信じられる男がいるから、彼女はそれ以外をまったく信頼せず、ただ自分だけを恃みに前に進んでいけるのか。後ろを、完全に任せられる男がいるから。

 彼女を知っている彼がいる限り、他人にどう思われようと構わないのだ。

 だから、世間から多賀と呼ばれようが、どうでもいい。彼女は安倉の前では、ずっと義堂真実のままだから。

 そして、表では〝義堂真実〟という神を創る。

 完璧で、完敗だった。

 もう、笑うしかない。

 私は何に捉われていたのだろう。もしや、こちらの奥底まで覗いておいて、自分は一顧だにしていなかったなんて。

 彼女を神にしたのは、多賀だ。多賀の死が、彼女を神へと押し上げる。

 しかし一体、そこにどれほどの多賀の意志が含まれていただろう。

 どこまでを多賀は自らの意思で行い、どこまでを義堂に操られ、やらされたのだろうか。

 何ひとつ、わからない。

 虚偽が混ざり合い、真実の姿を消してゆく。

 いや、ひとつだけわかることがある。

 彼女は嘘をつくことに、愛されている。誰をも魅了し、弄び、操ることができる。

 ただ、多賀だけが、それに気がついた。

 哀れな安倉は、どこまで気がついているのだろうか。

 それを思い、少しだけ、同情した。

 雲が途切れ、隙間から月が覗く。多賀を照らす。

 その瞬間、スピードが上がった。香りが、消える。

 多賀は、ひとつの真実を胸に、死を迎える。義堂真実、彼女は

 ――嘘憑きだ。

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