第三話 家族

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「はじめまして。真実さんとクラスメイトだった、信藤と申します」

 義堂真実の自宅は、市内から少し離れているとはいえ、庭もあり、門扉もついた立派な戸建てだった。

「はい……」

 インターフォンの向こうの声は、訝しげだったが、子供ということで無碍にもできず、当惑している様子だ。それを逆手に、信藤はぐいぐいと押す。

「娘さんの件では、ご愁傷様でした。実は僕、真実さんに借りたままのものがあったんです。ご両親に悪いと思いながら、僕の思い出にもらっておこうとしていたのですが、やっぱり、親御さんの元にあった方がいいのかなと思って……」

 これ以上は、ここで話したくない、というのを暗に漂わす。向こうも家の前に居られるのも気まずいと思ったのだろう。「どうぞ」という声とともに、錠が開けられた。

「ありがとうございます」

 信藤は、義堂真実がいなくなって初めて、彼女の実家に訪れることとなった。


「わざわざありがとうね――」

 そう言いながら、居間に通されソファに座る信藤の前に、義堂真実の母であろう人物はお茶とお菓子を差し出した。

 信藤は頭を下げ、お茶をひと口もらう。啜りながら、母親の顔を観察した。

 顔立ちは、驚くほど義堂と似ていない。父親似なのだろうか。ただ、声色はどこか似ている気もした。

「こちらこそ、急にお訪ねして申し訳ありません」

 母親は、そっと微笑んで、一旦台所に戻っていった。そして、手を拭きながらやってくる。

「最近の高校生は、皆礼儀正しいわね」

 果物が盛られた皿をテーブルに置いて、母親は座る。

「よかったら、食べて」

「ありがとうございます」

 礼を言いながらも、信藤は果物には手をつけなかった。そのまま、口を開く。

「それで、借りていたものなのですが……」

「ええ」

「これなんです」

 す、と押し出したものは、『MONSTER』というマンガだった。このマンガは、同じクラスの上野良子から聞き出した。義堂とマンガの話で仲が良かった、と嘯いていた女子の情報なので、持っていたのはほぼ間違いないだろう。

 実際は、義堂から借りてなどいなかった。ただ家族から話を聞きだすためだけの口実だ。

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