④-1
「待ちなよ」
先ほどと違い、今度は多賀が信藤を呼び止める形だったが、信藤は応えることなく歩いていく。
「待ちなって」
肩を掴まれて、やっと立ち止まると、鬱陶しげな目で多賀を見上げた。
「何だ」
「何だじゃないでしょ。どうすんの、北上の証言」
「無視するに決まってるだろ」
「いいの、それで」
多賀の返答に、意外な面持ちで信藤が返す。
「お前は、あいつの証言が信用できるとでも? 自分のやったことを正当化したくて、死んだ義堂が反論できないのをいいことに、ありえないストーリーを考え付いた。ただの妄想だ、あんなもの」
「私もそうだとは思うよ。でも、それも含めてありのままの証言を書いて、読者に判断してもらうのが正しいやり方なんじゃないの? このままだと、あいつが言ってたように、あんたが書きたい真実(まみ)しかそこには出てこない」
多賀に痛いところを突かれて、信藤は顔をしかめる。
「だったら、それでいい」
「いいわけない!」
多賀が叫び、手を挙げた。信藤は、思わず顔を庇う。
「……情けない」
そんな態度に、多賀は舌打ちを浴びせた。信藤が歯軋りをしながらも、反論する。
「手を出すのは、卑怯だ」
「そっちじゃない。少しでも、あんたに期待した私が馬鹿だった、って話」
信藤の顔が、真っ赤になる。
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