②-3

 信藤からの言葉を聞いた多賀は、納得したように頷いている。

「はっはーん。だから、真実(まみ)を追ってるわけだ」

「それだけじゃない」

「わかってるって。真実はそういう天然の人誑しなとこあったからなー」

 ひとり勝手に納得して頷いている。信藤は溜息を吐くと、今度こそその場を去ろうとした。その背中を、多賀の言葉が引き留める。

「わかった、私も手伝う」

「はあ!?」

「真実に対する塾の奴らの態度、納得いってなかったんだ。助けてあげるから、やるからにはしっかり真実の姿を現してね」

「最初からそのつもりだが――」

「塾の人間とか、他の学校の奴に話を聞くのに、あんただけじゃ無理でしょう。私がそれを手伝ってあげる。あんたにとっても悪い話じゃないでしょ?」

 それは、そうだ。信藤はもともと人見知りだし、友達も少ない。小学校・中学校の頃のかろうじていた友人とは、既に疎遠になっている。翻って、他校になど人脈があるはずもなく、これからどうしようか、という悩みはあった。これまで通り、行き当たりばったりでどうにかなる、という思いもあったが――。

「断る」

 やはりひとりでやりたかった。信藤は掌を多賀の前に突き出すと、そのまま「じゃあ」と踵を返した。

「……あっ! ちょっと、待てこの!」

 だがその逃走はうまくいかず、信藤は簡単に襟首を掴まれてしまう。

「ぐえ」

「あんたを完全に信用したわけじゃない。監視の意味も含めて、一緒に行動させてもらうって言ってんの!」

「何の権利があって……」

「真実の友達だったからだよ。それ以上の理由も、権利もない」

 言い切られると、信藤も観念したのか、息を吐き、力を抜いた。

「わかったよ。とりあえず、もう少しこの塾の人間から話を聞く。そこは、手伝ってくれて構わない。それ以降は、見てから判断させてくれ」

「書くのを読むまで逃がさないけどね」

 今日どうにかやり過ごせば逃げられるだろう、と踏んだ信藤の企みは見事に見透かされ、多賀から携帯を奪われると、指紋認証を無理矢理やられ、番号を登録させられ、LINEも登録しあうことになった。

「あんた、やりもしないのにLINE入れてんだね」

 痛いところをつかれて胸が苦しくなるが、無視をして、信藤は顎をしゃくった。

「それで、次に話を聞くべき人物は、いるのか」

「ああ、あれだね。丁度出てきた」

「ん? あの煙草を吸ってる大男か?」

「違うよ、どこ見てんの。あの、塾から出てきた男の人」

 そう言った多賀の視線の先には、今までとは違う属性、つまり、大人、塾講師の姿があった。

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