④-2

「何!?」

 荒らげられた言葉に、上野が肩を竦める。

「いや、悪い。続けてくれ」

 自分は〝友達〟なんて言える間柄ではなかったのに、お前が堂々と〝友達〟と言うか⁉ それは彼女の好意に甘えすぎではないか、など色々と言いたいことはあったが、今は彼女の話を聴くべきときだろう。信藤は自分を押し留めて、彼女の言葉を待った。

「……信じられないかもしれないけど」

「そんなことはない。さっきのは、すまない」

「いいの。わかってる。私と、義堂さんは、傍目から見たら、合わない。そんなこと、当然だから」

 上野は急に人が変わったように冷静に返すと、澄んだ眼差しで信藤を捉えた。

「でも、彼女にも、隠れた趣味くらいあ持ったんだよ」

「……具体的には」

「私を見ればわかるでしょ? マンガよ。多分、普通の人よりは詳しいと思うし、実際私と同じように、描いてたんだって。それで、私と義堂さんは――」

「もういい、わかった」

 もう、沢山だった。こいつまで、同じようなことを言うのか。

 だが、同時にわかってきたことがある。義堂は、そうやって弱さを相手に敢えて見せ、共通点を作ることで、相手の懐に入っていた節がある。

 そうして気を許させて、友達と思いこませて、級友を救っていた。そう考えると、信藤の知っている完璧な義堂と、矛盾はないように思われた。

 逆に全員、それぞれがそれぞれの彼女の弱みを知っているなんて、良く考えたらおかしいのだ。

「えっと……あの」

 話を遮って黙ってしまった信藤を窺うように上野が覗き込む。

「ああ、すまない。ありがとう。お蔭で、義堂のことがよくわかった」

「そう?」

「ああ。きっと、本に生かすよ」

 そう言って、上野と別れた。

 彼女もまた、仄暗い優越感を抱いて生きていくのだろう。

 その灯火を、打ち砕くような完璧な義堂を描いてやる。

 そう思いながら、信藤は校庭へと目を向けた。

 この推測を裏付けるために、ヒエラルキーの上と下を取材したらなら、残るは中間だ。

 まったくもって無害な男子たちを見下ろし、信藤は溜息を吐いた。

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