噓憑き

門田真青

プロローグ

プロローグⅠ



     ※


「だって、私を完璧な〝本当〟にしてくれたんだから。やっぱりカタル君は、〝本当〟を見てるよね。ありがとう、カタル君」

 声が、違う。

驚いて、顔を上げた。逆光で、表情は読めない。

「どういう意味だ?」

 ただ黙って微笑んでいる。蒼い目だけが、光った気がした。

不意に声を掛けられて、一瞬、そちらに対応する。

 その間に、もうそこに姿はなかった。香りだけが、そこに残っている。

 立ち上がり、探す。

 まさか、そんな馬鹿な。意味がわからない、質の悪い冗談だろう。

 そんな言葉が頭の中を駆け巡る。だがどこかで、この血の気の引いた感覚が、全て真実だとも語っている。

 赤いドレスの裾が、会場から出て行ったように見えた。

 走って会場を出るが、姿は見えない。廊下を走り、エレベーターホールに出る。受付に訪ねるが、誰も覚えていない。

 エレベーターは、下に行っているものもあれば、上に上がっているものもある。

 頭を掻き毟った。

 しかし、止まってなどいられない。

 受付の隣にあった階段を駆け下りる。ホテルのエントランスへ。周りを見渡すが、いない。ドアマンに訊くが、やはり首を振られる。エントランスは、ひとつじゃない。

 色々と駆け回るが、どこもなしの礫だった。

携帯を取り出し、電話を掛ける。出ない。LINEも、メールも、反応は無い。

 ――まさか、そこまで考えて。

 背筋が凍る。そんなことありえない、と思いながら、ここまでの計画を練った彼女なら、ありうるとも思える。

途方に暮れながら、空を見上げる。真っ暗な夜空は、全てを吸い込んでしまいそうだった――。


     ※

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