Homme riant

エリー.ファー

Homme riant

 笑う男はいつだって、最高のお祭りのことを考えている。

 何せ、その男は笑っているだけで誰かに憎まれていたからだ。どんな人間もその男のことを見ると段々を腹が立ってくる。何せ、常に笑っているのだ。

 理由もなく。

 大した意味もなく。

 笑っているのである。

 そんな笑う男からすれば、自分の笑っている状態が肯定されるのはお祭りの時だけだ。

 その時は自分以外の人間も皆、笑っているのだからどうしたって自分だけが憎まれるのは筋違いというものである。お祭りの時に笑顔でいることの何がいけないのか、むしろ、しかめっ面でいることが最大の悪だろう。

笑う男は考える。最高のお祭りにすれば、自分が笑っていることは絶対に肯定されるし、そんな最高のお祭りで最高の笑顔をすれば、お祭り以外でも笑っていたところで、皆も許してくれるのではないか。

 あの男はいつも笑っているけれど、とっても面白い、最高のお祭りを作ったんだよ、だから馬鹿にしちゃいけないよ。

 そんな言葉が町中で溢れれば、自分の立場も何とか維持できる。

 笑う男は早速最高のお祭りを作るために奔走し始める。まずは、出店だ。

 クレープ屋。

 たこやき屋。

 やきそば屋。

 おめん屋。

 フランクフルト屋。

 わたあめ屋。 

 さあ、片っ端から声をかけるが全部断られる。

 理由は単純だ。

 笑っているから。

 笑う男だから。

 いつも笑っているものだから、こんなところで協力してくださいと頭を下げても、誰も集まってはくれないし、そもそも本気にすらしてくれない。

 じゃあ、今度は興行だ。

 サーカスを呼ぼう。

 猛獣使いだ。

 ジャグラーだ。

 天才マジシャンだ。

 ダンサーだ。

 なんだっていい、盛り上げてくれる人だったら、政治家だろうか落語家だろうがじゃんんじゃん予防。

 しかし。

 集まらない。

 何故か。

 ああいう人たちというのは笑顔を作り出すのが仕事なのに、その仕事を頼みにくる人間がなんともまぁ、笑顔でいるのだ。

 笑顔を作りだす前に既に笑顔の人間がいてしまうじゃあ、なんともやる気というものが出てこない。

 どんだけお金を積んでも。

 どんだけ頭を下げても。

 残念なことに最高のお祭りに必要な、最高のエンターテイメントは集まらなかった。

 いつまで経っても、最高のお祭りの形すら見えてこない。

 これでは、これでは余りにも。

 笑う男は考える。

 そうだ。

 町一番の時計台に上ってそこに、旗を立てよう。

 この町のことを示す、ゴゼンケトウの花がある。

 そのマークを大きな旗に書いてそれを時計台の一番上につければいい。

 皆、この町が大好きだからきっと喜ぶに違いない。

 笑う男は急いで、花の絵を描いた大きな大きな旗を持って時計台を昇り始める。段々疲れてくるけれども、最高のお祭りのためにはもうしばらくの辛抱だ。

 なに、旗がはためくくらいのことで、最高のお祭りには程遠いなんて、言う人がいるかもしれないが。

 この笑う男はもう、一所懸命だ。

 さあ、一番上まで登って外側に出て、旗を自分の体に巻き付けて外壁を昇る。

 てっぺんにきたあたりで、大きな風が吹き。

 大きな旗が笑う男の首に絡まってそのままどっかに引っかかる。

 笑う男の顔はどんどんと真っ赤になって、首吊状態。

 それに気が付いた町の人たちが指をさして笑う。

「ああ、あいつ死ぬときには笑わねぇんだな。」

 皆、大きな声で笑うものだから、何にも知らない町の外にいた旅人たちは驚いた。

「なんだなんだ、お祭りでもやっているのかな。」

「あぁ。きっと、最高のお祭りに違いない。」

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