未来を見越した話し合い
「だーかーらー!それは兄の周りだけで人気のやつで、世間一般的にはそこそこも人気ないんだから入荷しても儲けが取れないって言ってるの!」
「ごちゃごちゃうっせぇなぁ、んな事知らねぇんだよ。俺の周りで人気なんだから他でも人気に決まってるだろ」
「少なくともあんたさんの家族はだーれ一人も見向きすらしてなかったけどね!」
「女の分際で舐めやがって……やんのかゴラ!」
「やってやろうじゃんかコラー!」
ある日のお昼、いつもは平和でほのぼのとした居間はこれ以上無いほど険悪な雰囲気が漂っており、その発生源の俺と兄の間では父さんが頭を抱えていた。
「とりあえず二人共落ち着け、どっちの意見も分かったから一旦整理しよう」
「でもっ!」
「んな必要は!」
「いいから、落ち着け」
「「……はい」」
「それじゃあもう一度説明するぞ。まずお前達を呼んだのは次の仕入れの方針を決める為であって、どの商品を仕入れるかじゃない。そこはいいな弘紀」
「……おう」
「で、次に実際の売れ行きを見てから狙い目を決めて仕入れの方向性を決めるはずだよな。千代」
「……はい」
「よろしい。それじゃあ改めて売り上げとかの説明する必要も無いだろうし、それぞれ売れ行きを見てどういう方向性の商品を仕入れるか弘紀から言ってみろ」
「おう」
険悪な雰囲気も父様によってとりあえず一旦は落ち着いたものの、父様に先に呼ばれたからかドヤ顔でふふんと俺を見下しつつ立ち上がった兄に俺はイラッとし、また元の雰囲気に戻りかけてしまう。
「見た感じ売れてたのはこのなんだ?日用品って言うやつだけどよ、確かに売れてはいるけど一つ一つが安いんだよ」
そりゃそうだろうよ、だって日用品は消耗品がほとんどなんだもん。
「それならさっき言った見てぇによ、この街にはそういったの扱う店は無いんだからこういった玩具は皆買うだろうし沢山仕入れて高値で売れば大儲けできていい話だろ?」
「ふむ、その考えも確かに一理ある」
「でも高値で売るって言ってもトランプとかそういった小さめの玩具じゃなくてオセロとかそういう大きめなのでしょ?」
「まぁな、流石の俺でもそんなちいせぇ玩具に一万も二万もつける気はねぇよ」
逆にオセロにそれくらい付けるつもりだったのかこの兄は……
「確かに適正価格なら儲けは出ると思うけど、トランプとか小さな玩具に比べてオセロみたいな大きめな玩具は一回買ったらもう次に買われる事は基本的にないと思うけど?」
「ぐっ……お、親父はどうなんだよ」
「確かにこの街には娯楽が少ないし、そういったのを扱う店もない。儲かるには儲かるだろうが、千代が言ったみたいに需要を満たした後にもし弘紀が言ったみたいに沢山仕入れて大量に在庫を抱えてたりしたら悲惨な事になるな」
「ぐぅ……」
意気揚々とそう話していた兄だが俺のその反論に返しが思いつかなかったのか、最後は珍しく父様に頼ったもののいい所もだが悪い所も挙げられ項垂れてしまう。
「で、それに対して千代はどんな風にするべきだと思う?」
「私はとりあえずは今のままの経営方針、日用品を主軸にした仕入れでいいと思う。ウチ店の強みは街全体が常連みたいなものだから安定はする……でも」
「でも?」
「でも多分、まだ数年はかかると思うけどそれくらい経てばこの街の近くにも大型ショッピングモールが出来る。そうなると今のままじゃウチは確実に潰れる」
「そんな数年も先のことなんて売り物には関係ねぇんだから気にする必要ねぇって決まってんだろ!なぁ親父」
「弘紀、少し黙ってろ。それで千代、お前はそれに対してどういった対策を取るつもりだ?」
父様の目は……真っ直ぐだ、相手が子供とは言えその意見に正当性があれば採用する事も考えてる、そんな目だ。
だが、だからこそ────
「…………このお店、花見屋を将来的には飲食店にするべきだと思う!」
俺の考えている事の全てを、ここでぶつける!
その決心と共に、俺は父様と兄を前にそう真剣な表情で二人へと考えを話し始めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます