またいつか
ほんの少しだけ雲の浮かんだ高い高い空から降り注ぐ、ぽかぽかと暖かな陽の光が道の端に残っていた雪を溶かしきる。
そんな春を感じ始める陽気な日和の今日、俺達いつもの四人組は……
『それでは、卒業生による「巣立ちの歌」です』
とうとう、この長かったようで短いような小学校生活最後の大イベント、卒業式を迎えていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「それじゃあ母様、父様、私ちょっとやる事あるから。また後でね」
「あら?そうなの?」
「終わるまで待ってるぞ」
「ううん、大丈夫。それに少し時間かかるから、先に帰ってて?」
「千代がそういうなら……」
「お御馳走ありますから、あんまり遅くならないようにね?」
「はーい!それじゃあまたね!」
つつがなく式も終わり、その後の先生の挨拶も済んだ後、式を見に来てくれていた母様と父様に卒業生の挨拶なんかを褒めてもらった俺は、そう言って卒業証書の入った筒を片手に用事のある場所へとかけていく。
「お待たせー!」
「お!ちよよんお疲れ様ー!」
「お疲れ様ー。ごめんねー、つい話し込んじゃって」
上手に出来てた、凄い凄いって褒められてたらつい。
「大丈夫大丈夫ー、丁度今いい感じになった所だから。ね、れーくん」
「おう。ほら千代、こんな感じだぞ」
「おぉ!いい感じじゃん!」
大きさも深さも丁度いいくらいだ!
「だろ?」
「うん!さっすが礼二!頼りになるー!」
「そ、そうか?それなら、それならさ千代!俺と付き合って──────」
「それじゃあ皆!早速やっちゃおう!」
「……最後まで、ちよよんはちよよんだったなー」
「だねー」
「えっ、なに、どういう意味?」
「そこで崩れ落ちてるれーくんに聞いてみれば?」
「えっ、どうしたの礼二?大丈夫?」
なんか知らん間に四つん這いになってるけど。
「だ、大丈夫……もう、慣れたし」
「?まぁ大丈夫ならいっか。それじゃあ仕切り直して……皆、用意してきたもの出してー」
とりあえず礼二は問題無さそうだと判断した俺がそう言うと、皆はそれぞれ持ってきた物をポケットから取り出し始め、それを一つ一つ持ってきた少し大きめのカンカンに入れていく。
そう、俺達は小学校最後の思い出にと、タイムカプセルを埋めにきていたのだった。
「にしても、こんなことやって大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫、ちゃんと先生には許可取ったからね」
日頃色々と貸し作っておいた甲斐があったってもんだーよ。
「なるほど、流石千代。そういう事はキッチリしてるな」
「でもこれって、何だかドキドキするね!」
「うんうん!次開けるのっていつにするんだ?」
もう開ける話か……流石叶奈ちゃん、気が早い。
「叶奈は気が早いなぁ。そこはほら、三年後とか」
「いやはえーよ!」
まさか礼二が叶奈ちゃん並に気が早い事言うとは思ってなかったよ!
「そこはほら、大人になってからとかさ!ほら!二人も同じ意見だよ!」
「「うんうん」」
「そ、そんなもんなのか?」
「そんなもんなの!ほら、分かったらさっさと埋めて!」
「お、おう。了解。それじゃあ埋めるぞー」
そう言った礼二によりしっかりと蓋をしたカンカンが土に埋もれていく様を見守った俺達は、その場を片付けてタイムカプセルを埋めた木の下を後にする。
「さて。大人になってからとは行ったけど、果たして何年後になるんだろうねぇ」
「大人になってからだからー……二十才になったらかな!?」
「いやいや、大人っていったら働き出してからじゃない?」
「となると二十三才とかその辺かな?」
あー、確かに一言で大人って言っても色々あるもんなぁ……
「遠いねぇ」
「だねぇ」
「今から待ち遠しいぞ!」
「ふふっ、案外すぐかもしれないよ?」
そう、十年、十五年、あっという間さ。だからその時になったら──────
「また、皆で来ようね」
こうして、俺達四人は六年間共に過ごした学び舎を後にしたのだった。
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