夕食さでぃすと

「おにーちゃん今日不機嫌じゃないかなぁ」


「何かあったの?」


 無事に二つの病気も治り無事退院した俺はあれから数日後、既に夏休みに入り誰も居ない学校へ通知表を貰いに行った帰りに出会った綺月ちゃんとお喋りしていた。


「実はおにーちゃんこの間虫歯になってさ、今日また行く事になってるんだよね」


「あー……」


 虫歯かぁ……あれ痛いよなぁ……まぁ少なくとも今世は前世よりも更にきちんと歯磨きしてるし、歯並び噛み合わせ共に驚く程完璧だから今の所俺は大丈夫だな。


「綺月ちゃんもきちんと歯磨きするんだよ?じゃなきゃせっかくの綺麗な歯がダメになっちゃうからね」


「勿論だよー。ちよちーもきちんとするんだよー?」


「あたり前田のクラッカー」


「私もこの間見たよーってあぁっ!クラッカー!いいなっ、いいなー!私にもわけてー!」


「いいよいいよー!」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 なぁーんて、呑気に道中貰ったクラッカーを綺月ちゃんに分けてあげたりしてたけど……


「どうした?千保。食べないのか?」


「何処か体調でも悪いの?お部屋で休む?」


「う、ううん!大丈夫!大丈夫……」


 どう見てもあれって虫歯だよなぁ……


 あれから数時間後の夕食時、俺はいつもなら大喜びでおかずやご飯に箸をつける千保お姉ちゃんが珍しく箸を殆どつけず母様達に心配されてるのを見てそう思っていた。


 こう、友達と話題にしてたのがその日の内に怒るなんて、なんかアニメみたいだなぁ。じゃなくて、こういうのは隠し立てしてもろくな事にはならんぞ我が姉よ。

 という訳で……


「千保お姉ちゃん、もしかして虫歯?」


「!?そ、そそそんな事ないしー?」


「じゃあご飯食べよっ!今日のは上手に出来たんだ〜♪」


 名付けて「可愛い妹は断れない作戦」だ!


「い、いや、今日はちょっと食欲がないと言うか……」


「千保お姉ちゃん……私の料理、嫌いになったの?」


「そ、そんなわけないじゃん!ウチよーちゃんの料理大好きだし!」


「ほんと!?それじゃあ、はい!あーん」


「あ、あーん……んんっ!」


「ん?千保お姉ちゃんどうしたの?」


「んんん!なんでもないなんでもない!今日もよーちゃんの料理は美味しいよー!」


「えへへへへ♪千保お姉ちゃん今日なんにも飲んでないし喉も乾いたでしょ。はい、麦茶もどーぞ」


「う、そ、それは……」


「要らない?」


「うぅぅ……」


 最初のチンジャオロースでそこそこダメージを負っているのが分かる我が姉に、俺はそう言うとキンキンに冷えている麦茶をいれたコップを千保お姉ちゃんに差し出す。

 しかし千保お姉ちゃんは受け取りたくなさそうな挙動を見た俺は、すぐさましょんぼりといった雰囲気を作りコップを受け取らざるを得ない雰囲気を作り出す。

 そして……


「……ごめんなさいっ!ウチ虫歯になっちゃいました!だからよーちゃん意地悪しないでー!」


「うむ、ちゃんと自白出来て偉い千保お姉ちゃん」


「うぇーん、よーちゃんむぎゅうしてやるぅー」


「ぬぅおおおぉぉ……」


 まぁ、ちょっと意地悪だったし、今回は甘んじて受けようじゃないか。


「全くもう、虫歯なら早くそう言いなさい」


「そうだぞ、歯は大事にしないとだからな。とりあえず明日休みだし歯医者に行くとするか」


「はーい。よーちゃんも着いてきてね?」


「仕方ないなぁ」


「母様からもお願いしていいかしら千代。途お菓子とか買ってきていいから」


「はーい」


 後日、お泊まりに行ってた千胡お姉ちゃんに何があったか聞かれたり、まさかの馬鹿兄まで虫歯だった事が判明したりした。

 そして歯医者の待合室でずっと千保お姉ちゃんに抱っこされてたりしたのはまた別のお話。

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