ざんざん雨降り、梅雨の訪問

「さて、いつもなら生垣突っ切って渡して来る所だが、今日はそこそこお気に入りの服だし、そもそも汚したら母様に怒られるから普通に表から行くとしよう」


 梅雨の時期、パラパラと雨の降る中ぺちゃっぺちゃっと下駄で濡れた音を立てつつ、紺色の膝丈スカートに白いVネックのTシャツ姿の俺は、片手に傘、もう片方の手に紫陽花の風呂敷をぶら下げて礼二の家へと向かっていた。


 家が真後ろにあるとこういう時地味に遠いんだよなぁ。だからきちんとお届け物しようとするとちょびっとめんどくさい。


「というかもう梅雨の時期かぁ。洗濯物とかかわかなくなるし、ズボンだと蒸れる癖にスカートだと裾が濡れるしで勘弁して欲しいもんだ」


 まぁ別に体調悪くなる訳じゃないし梅雨の愚痴は置いておくとして、なんやかんやで礼二の家に行くのも久しぶりだなぁ。

 最近はおばさんの顔見てなかったし、元気にしてるかな?


「ま、とりあえず行けば分かるか。いくら車が走らないから水かからないとはいえ、何かの拍子で濡れる前に急いで行こーっと」


 そう言うと俺はくるりくるりと傘を回しつつ、憂鬱な気持ちを晴らす様に鼻歌を歌いながら歩くのであった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


「お邪魔しまーす」


「千代?どうしたんだ急に」


「あ、礼二居たんだ」


「いや、休みで雨なんだから家に居るだろ普通」


「でも礼二低学年の頃雨の日によく外で遊んでたじゃん」


「そ、そんな事あったか?」


「あったあった。礼二が千代ちゃん外に連れ出してねぇ、二人してびしょ濡れになって帰ってきたと思えば次の日千代ちゃんが風邪ひいて礼二すっごい焦って────」


「ちょっ!母さん!」


 あったあった、懐かしー。


 いつも通り玄関で賑やかに礼二のおばさんと礼二に迎えられた俺はおばさんに包みを渡し、上がっていきなさいと言う言葉に甘えて家に上げさせてもらう。


「所で礼二は何やってたの?」


「プラモデル作りながらテレビ見てた」


「へー。うわっ、また古いプラモだ」


「古い?これ最近出た戦車のプラモデルだけど」


 おっと、今世になってからプラモデルとか全然やってなかったせいでつい絵柄から古いと言ってしまった。

 でも昔のプラモデルってこんなちゃちい感じだったんだ、令和のあの精巧なプラモデルが如何に技術の進歩で生まれた超クオリティだったかがよく分かるぜ。


「ごめんごめん。というか見てる番組「テレジョキ」じゃん!いいなー!私も見たーい!」


 家じゃあのクソ兄が居るからおちおちテレビも見てられないんだよねー!


「プラモの邪魔だけはするなよ?」


「しないしない!」


 する訳がない!俺も前世じゃプラモデル作ってたしな!


「それなら別にいいぞ」


 やった!


「ありがとー!礼二大好きっ!」


「だいっ……!?ん、んんっ!と、所で千代、お前ってどんな番組好きなんだ?」


「私?そうだなぁ……」


 何故か若干耳を赤くしつつ目を合わせようとしない礼二にそう聞かれた俺は、首を傾げながら顎に手を当てて最近まで見ていた番組を思い出していく。


「今年の三月だっけ、終わっちゃったけど「八時だゾ!全員集結」は毎回見てたなぁ」


 あれは令和でも語り継がれてた伝説の番組だったからな。第一期をリアタイで見れるなんて、感動モノだったよ。


「あれ俺も見てた!面白かったよなぁー」


「そういう礼二はどんなの見てたの?」


「俺か?俺は「いたずら大挑戦」が好きだなぁ。昨日のやつ面白かったぞー」


「私あれいつも寝ちゃって毎回見損ねてるんだよねー。いいなー」


「こ、今度内容教えてやるよ。だ、だから、また俺の家に……」


「ほんと!?いくいく!また遊びに来るよー!」


「よかったわね礼二、また千代ちゃん遊びに来てくれるって。はい、二人共お菓子をどうぞ」


「おばさんありがとー!」


 おばさんのお菓子美味しいから大好き〜♪


 思わず子供らしく両手を上げて俺が喜んでいると、突然何があったのかお菓子を机に乗せた所でおばさんは口元を押さえちゃぶ台の上に突っ伏してしまう。


「母さん!?」「おばさん!?」


「だ、大丈夫よ二人共……ちょっと吐き気が……!うっぷっ!」


 ちょっ!これただ事じゃないぞ!?と、とりあえず!


「礼二!」


「ひゃいっ!」


「樋ノ口先生呼んできて!私が呼んでるって言えばすぐに来るはずだから!」


「わっ、分かった!」


「おばさんは私が見てるから!急いで!」


「おう!母さん待っててくれ、すぐにお医者さん呼んでくるからな!」


「おばさん、とりあえず横に。楽な姿勢で居ましょ」


「あ、ありがとうね千代ちゃん……うぅ……」


 頼んだぞ、礼二。


 おばさんをなんとか横にしてあげながら、俺は傘すら持たず猛ダッシュで出ていった礼二に向かってそう願うのであった。


 そして数分後、俺の名前を出した事が幸をなしたのかすぐにやってきた樋ノ口先生により礼二のおばさんの診察が行われ────

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