女の幸せ

「今日も雨凄まじいなぁ」


「川氾濫しないといいけど……」


「もし氾濫したら皆みやみやの神社に避難だな!」


「それが一番だねー」


 礼二の家であんな事があってから数週間後、予想通り俺達の住んでる地域も梅雨入りし、毎日雨ばかり降っていた。

 そしてそんな日々を俺達は────


「所でほんとに二人共持ってきたの?」


「持ってきたぞ!」


「おめでたい事だからね、お父さん達も協力してくれたよ」


「流石だねぇ二人共」


「祝ってくれるのは嬉いが、他所の家がそこまで気合い入れるような事じゃ────」


「「気合い入れるような事なの!」だぞ!」


 いつもより元気に明るく過ごしていた。

 何故こんな憂鬱な時期にこれほど楽しく過ごせているのか、それはとある一つの嬉しいニュースのおかげであった。


「お、おぉ……そ、そうか……」


「気持ちは分かるがこればっかりは大人しく従え、礼二。男で子供なお前はまだ分からないだろうが、大きくなれば分かるようになるさ」


 女性はこういった事に関しては本当に心から喜ぶからな。

 かという俺も前世の感覚でやってるにしては前世の頃よりも深くおめでたいって思ってる分、やっぱり女になってると実感するよ。


「っと、そうこうしてたらついたね」


「喋ってると早いもんだなぁ……皆が来る事は話してるから、そのまま上がっちゃって。母さんただいま。皆来たよー」


 お、手際がいいじゃん、流石礼二。それじゃあ遠慮なく。


「「「おじゃましまーす!」」」


「はーい、おかえりなさい礼二。それに皆もよく来てくれたね、いらっしゃい」


 そう言ってにこやかな笑顔を浮かべ、いつものように優しく出迎えてくれた礼二のお母さんは、お腹に手を添えていたのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


「これ、お父さんお母さんからのお祝いです」


「叶奈も預かって来てるぞ!」


「あらまぁ二人共ありがとう。とっても嬉しいわ」


「私も改めて、おばさんおめでとうございます」


「千代ちゃんもありがとうね。あの時千代ちゃんがいてくれて助かったわー」


「いえいえ、お医者さん呼びに行ってくれたのは礼二ですから」


「ふふっ、そうね。礼二にも感謝しなくっちゃ」


「別に、当たり前の事しただけだし」


 可愛くないなぁー。でも本当にびっくりしたよなぁー。


「まさか妊娠だなんて」


「私もびっくりしてるわよー」


 そう、数週間前のあの後、駆け付けてくれたお医者さんがあれやこれやと診察してくれた結果、あの吐き気を伴った体調不良の原因はつわりであると分かり、おばさんの妊娠が発覚したのだった。


「どんな子かなぁ?可愛い子かなぁ?」


「男の子かな?女の子かな?」


「叶奈、お姉ちゃんって呼ばれてみたいぞ!」


「あ!私も!ねーねとか言われてみたいっ!」


「ふふふっ、きっと呼んでくれるよ。礼二はお兄ちゃんだね」


「お兄ちゃんか……お兄ちゃん……お兄ちゃん……うん」


 こいつ、お兄ちゃんという響に軽く感動してやがる。


「おばさん、名前はもう決めてるの?」


「名前?そうねー、今の所お父さんと話し合ってる所だけど」


「「「だけど?」」」


「皆から愛されるような、そんな名前をつけてあげたいわ」


 そう言って本当に愛おしそうな表情でお腹を撫でるおばさんを見て、俺はほんのりと胸がきゅうっと締め付けられるようなモヤモヤを感じる。


 私も女なんだからいつか大きくなったらあんな顔で……好きになった人の子を……お腹に…………


「ちよちー?」


「ふぇっ!?な、なにっ!?」


「いや、ぼーっとしてたから大丈夫かなーって」


「あー、ごめん。心配かけちゃったね、大丈夫大丈夫ちょっと疲れただけだから」


 あっぶねぇー、綺月ちゃんに声掛けて貰えてよかったわ。なんかとんでもない事考えてた上に一人称も私になってた気がする。

 もう時代も違うし転生みたいなもんだろうから、元の体には戻れないのは重々把握してるし、女として生きていくのにはもう抵抗もない……筈なのに……


「あ!なんか今動いた気がするぞ!」


「え!?本当!?」


「ふふふっ、まだちょっと動いてるのが分かるのには早いかな二人共」


 ……うん、こんなに幸せそうなんだ、女の人生も悪くは無いさ。それにせっかくこんなに幸せそうなのに、うじうじ変な事考えて困らせちゃダメだな。


「おばさん」


「なぁに?千代ちゃん」


「元気な子、産んでくださいね!」


「えぇ、もちろんよ。千代ちゃんもこの子が産まれたら優しくしてあげてね?」


「はいっ!」


 こうして、しとしとと雨の降り続ける少し憂鬱な日々の中、俺達は明るく過ごして行くのであった。

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