可愛いあの子を賭けて
「そこまで!」
「ゼヒュー。コヒュー」
な、なんとか最後までやり切ったぞ!
「ゴッホゴホッ!」
「大丈夫ちよちー?」
「だ、大丈……ゴホッコホッ!」
な、なかなか息が整わない……とりあえず深呼吸して────
よしよしと綺月ちゃんに背中をさすられながら、なんとか斜め懸垂を完遂した俺は深呼吸をして息を整える。
「ふぅ……何とか落ち着いた。ありがとう綺月ちゃん」
「いいよいいよー。でもちよちーも体力ついたよねー」
「でしょー?」
最初に持久走やった時なんて途中で脱落したくらいだからね、大進歩ですよ。
「それで、私達が終わったって事は次は男子の番だね。肝心の男子共はーっと」
「あっちで準備してるみたいだぞちよよん」
知らぬ間に水を飲みに行って戻ってきた叶奈ちゃんにそう教えられた俺は、そこでふと昨日おじいちゃんの膝の上で見た時代劇が頭をよぎる。
「どれ、それでは某らは金物屋の息子と南蛮混じりに激励でもしてくるとしようぞ」
「どうしたちよよん、いきなりお侍な喋り方になって」
「なんかほら、高みの見物と言えばお殿様みたいな感じがあるじゃん?」
「あー」
「分からなくもないかも?というか南蛮混じりって神井くんの事か」
お、よく分かったな綺月ちゃん。
「ま、とりあえず応援しに行こっか」
「「はーい」」
のんびりとそんなやり取りをしつつ、周りからも仲良し三人組と言われる俺達は三人揃って礼二の元へと向かうのだった。
そしてその時、男子の方では────
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「俺、今回の持久走で十週以上走れたら花宮さんに告白するわ」
「「はぁっ!?」」
こいつが千代に!?告白だって!?
「いや、礼二はともかくなんで神井まで声上げてんだ」
「つい体が反応しちゃって」
「そ、そうか……」
喧嘩することも多いがなんやかんやで仲良くしているその悪友の言葉に驚いた俺は、目の前でそんなやり取りをしている神井と悪友を前に一瞬だけ完全に思考が停止していた。
「い、いや告白って……お前千代の事が好きだったのか?遠足に行った時弁当蹴っ飛ばしたりしてたのに」
「言うな!あの時の事は言うな!俺だってあの頃は若かったんだよ!」
「若気の至りと言うやつだな」
「いやお前ら、まだ俺ら十一歳だぞ?」
充分若いだろ。
「そんな事はどうでもいい!とにかく!俺は花宮さんに告白する!だって可愛いんだもの!」
「いや、お前が告白するのは別に構わんが無駄にそう発表するな」
隣にいるこっちが恥ずかしいわ。
いきなり腕を突き上げてそう言う悪友に俺がそうツッコミを入れていると、悪友はニヤリと悪い顔を浮かべる。
「ほう、お前俺にそんな口を聞いてもいいのか?」
「な、なんだよ」
「俺前に聞いたんだ。花宮さんは運動が出来てかっこいい男が好きだって!」
「え、そうなの?」
「いや、俺も初耳」
なんならアイツ「運動?別に出来なくてもいいし、私はそれより頭のいい人の方が好きだよ」なんて言ってたしな。
「俺は机に向かってるだけのお前と違って運動だけは得意だからな!花宮さんも俺の実力を知ればイチコロだぜ」
ふふんと謎の自信からドヤ顔を浮かべる悪友を見て、いつもならそんな事はないと確信をもてるのに、もしそうだったとしたらという悶々とした気持ちに俺は囚われてしまう。
そして俺は────
「ま、俺が花宮さんのダーリン?って奴になってやるよ」
「そ、そうか。頑張れよ」
「おう!そうと決まれば────」
「勝負だ」
「礼二?」
「なんだ?」
「勝負だ。悪友」
「勝負だぁ?」
「そうだ、勝負だ」
「いいぜ、受けてやるよそれで?何をかけるんだ?」
「お前が勝てば俺はお前の告白を手伝う」
「お!応援してくれるってか?嬉しいねぇ。それで、俺が負けたら?」
「千代に告白するのはやめろ」
「ほぅ……いいぜ、乗ってやるよ。勝ってみろよ俺に」
「勝ってやるさ。絶対に」
「あの、その、えーっと……もうこれは止めらんない奴?」
こうして不敵な笑みを浮かべる悪友とジリジリと睨み合いながら、俺は未だに俺の気持ちに気付いてくれない幼馴染をかけた戦いへと望むのだった。
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