祭りの準備と変わったしきたり
「んーしょ……っと」
こんな感じかなーっと。
「母様どう?ちゃんとできてる?」
「えぇ、きちんと出来てますよ。ただもう少し帯をきゅっとしておくと綺麗に見えますから、こうしてっ……と、ほら」
「おぉー」
なるほど、やっぱり見よう見まねじゃわかんないもんだな
リンリンリンと鈴虫の鳴き始める夕暮れ時、四年生に上がり部屋を貰った時に父様がくれた姿見の前で俺は母様に自分でやった着付を見てもらっていた。
「そういや、千代がこの姿見を貰ったのも去年のこの時期でしたね」
言われてみれば。あって当然、逆に無いと不安になるくらい馴染んでて完璧に忘れてたけど、こいつ貰ったのって去年の話か。
「時間が経つのは早いなぁ」
「あらまぁ千代がおばあちゃんに、なーんて。んもぅ、思いっきり驚くんじゃありません千代、恥ずかしいでしょう?」
「え、あ、いや」
だ、だってあの母様がおちゃめな冗談を……
「でも千代がそう感じるくらいこの子と千代は相性がいいのでしょうね。ふふふっ、ちょっとだけ花宮家の風習が羨ましいわ」
そう、この姿見は我が家花宮家のちょっと変わった風習である「部屋を持った娘に親が木を使った家具を渡す」というよく分からない風習で貰ったものである。
確か少しだけ耳にした時に「じょりんもく」とかそんな言葉が聞こえてきてたし、多分俺が理解してる以上にこいつは価値があるやつだと思う。
ちなみに俺は欅を使った姿見、千保お姉ちゃんは槐を使った化粧台、千胡お姉ちゃんは桑を使った箪笥であり、全員それぞれ今もとても大事に使っている。
「さて、こんなことしてる場合じゃないわね。浩さんにその浴衣見せるんでしょう?それに、今日のお祭りは千代も出るのでしょう?早く行かないと楽しむ時間が無くなりますよ」
「わわわっ!」
それは不味い!えっとえっと、手提げよし、お財布よし、諸々ぜんぶよし!
「いってきまーす!」
「行ってらっしゃーい。コケて浴衣をダメにしないようにねー」
こうして俺はこの街の名物でもある祭りの一つ、無事収穫まで漕ぎ着けたこの街の農家達を商人がもてなす秋の収穫祭へとかけていったのであった。
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