甘い物には勝てなかったよ……
「それじゃあ今日はよろしくお願いします」
「はい。大切な娘さん、今日一日しっかりお預かりさせて頂きます」
「千代、忘れ物はない?迷惑かけちゃダメよ?」
「大丈夫母様!忘れ物ないよ!」
全くもう、母様は心配性なんだから。
修学旅行から戻ってきて一週間後の日曜日の朝、母様にちょっとだけ白い花があしらわれた水色の肩掛けバックをかけてもらいながら、俺は先生の横で大丈夫と胸を貼る。
「ふふふっ、千代ちゃんはしっかり者ですからね。さて、それではそろそろ……」
「おっと、長々と引き止めてすいませんでした」
「いえ、私も楽しかったですから。それじゃ千代ちゃん、行こっか?」
「うん!いってきまーす!」
「「行ってらっしゃーい」」
「今日は修学旅行の分も楽しもうね、花宮さん」
「うん!」
先生と二人っきりでお出かけとかいう超超超レアイベント!全力で楽しむぞー!
両親に手を振りながら送り出された俺は、両親に手を振り返しながら、先生と顔を見合せ元気に頷き手を繋いで駅へと向かうのであった。
そう、今日は修学旅行先で先生と約束したお出かけの日なのである。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
とは言ったものの……
「先生ー」
「ん?なぁに花宮さん」
「今日なにするのー?」
そもそも今日行く場所すら知らねぇっていう話する?
電車に揺られ数時間、ようやっとたどり着いたガヤガヤと騒がしい街の中、なんやかんやで聞きそびれていた重大な事を俺は横にいる先生へと尋ねる。
すると先生は───
「ふふふっ着いてくれば分かるわよ。着いてくれば……ね」
「う、うん……」
怪しい笑みを浮かべ俺の手を引っ張り歩き始め、俺も引っ張られるまま歩き続けると、駅から離れだんだんと人影も少なくなって来た所で俺はヤバいのではないかと考え始める。
これ……不味いよな?ヤバいよな?だってどんどん周り人居なくなってるし……と、とりあえず確認を……
「ね、ねぇ先生?」
「なぁにー?」
「その……まだつかないの?」
「んー、もうちょっとだよ」
もうちょっとって、こんな裏路地一歩手前みたいな場所に連れ込むだなんて……やっぱりヤバいよな?流石にヤバいよな?よ、よし……次逃げ出せそうな隙に手を振り払って────
「着いたよー」
って考えてたら目的地に着いてた!?もう逃げられないー!俺の幸せな人生はここで終わりなんだぁー!
そんな希望のない自らの未来を悲観し、きゅっと目を固く瞑り身を固めていたそんな俺の耳に呑気な先生の声で訪れた言葉は────
「ここが私の美味しい隠れ家、甘味処あじさいだよ!」
「ほえ?」
甘味処?あじさい?
そんな可愛いが何処と無く可愛くない店名で、それを聞いた俺が恐る恐る目を開けるとそこには、表通りから少し離れた埃を被った裏通りに建つ可愛らしいお店があった。
え?ここ……え?マジに普通のお店やさんなの?
「こんな裏路地にあるお店じゃないよねー。ほら、突っ立ってないで入っちゃお花宮さん」
「え、あ、は、はい」
い、いやまだだ、まだわからんぞ。もしかしたら「お前が甘味になるんだよ!」ってお店なのかもしれない!
騙されないぞ……!俺は絶対に騙されな────
「うまー♪」
「お待たせしました、こちらバウムクーヘンとなります」
「ありがとうマスター。ふふふっ、花宮さんほっぺにクリームついてるわよ」
「ふみゃっ!えとえと、こ、こっちかな?」
「ふふふっ、残念。こっちよ」
ほっぺクリームだ!ほっぺのクリーム取って食べるやつだ!
目の前のショートケーキに夢中になっていた俺の左頬についていたクリームを取り、ぱくっと口へ運んだ先生を前に俺はそう大興奮していた。
「どう?花宮さん。ここのケーキ気に入った?」
「はいっ!ん〜〜♪」
んもぅ甘くて美味しくて最っ高っ!
「ふふふっ喜んでもらえて本当によかったわ。あ、こらまたほっぺについてるわよ」
「うぇへへへへ〜♪めんぼくない」
だって美味しいんだもーん。
数分前の不安はどこへやら、俺はこのお店の甘味に舌鼓をうち、大満足でこの素敵な一時を過ごしたのであった。
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