女の子の理想
「──────という訳で、生徒諸君はこれからも規則正しい学校生活を送り、学業に邁進して行ってください」
お、やーっと終わったかぁ。
始業式、相変わらずどの時代でも長い校長先生の有難いお話が終わったのを聞き取った俺は、余りにも暇すぎてあやとりに使っていた髪留め用の紐を手首に巻き付ける。
「それでは皆さん、クラス毎に教室に戻ってください」
ーーーーーーーーーーーーー
「おつかれー」
「お疲れ様ー」
「疲れたぞー」
「だなー」
五年一組の教室の一角、始業式から教室へ戻ってきた俺達いつもの四人は、そう互いに労いあっていた。
「にしても、やっぱり皆が揃ってるのってなんか慣れないなぁ」
「あはははは!もう二学期だぞ!いい加減ちよよんも慣れようなー?」
「ほーい」
「でも私達四人が一緒の組になったのは今年が初めてだもんねー」
「だいたい俺か千代が別のクラスだったもんな」
「うっ……!もう一人で別の組は勘弁してくれー」
礼二の意地悪な視線を受け、ふと前の学年で一人になり例の「女帝」呼びをされた辛い一年を思い出し、あうぅと更に長くなった髪を机に広げながら顔を覆い隠すように突っ伏す。
「まぁ今年はみんな一緒何だし、そこまで気にしなくても大丈夫だよー」
「ん、そうだと信じる」
「そういや今日外で見たんだけど」
「ん?」
「なんか学校の裏手にすっごく豪華な車が止まってたぞ!」
豪華な車?それまた珍しいのが。
「へー、珍しいね。どういうのだったの叶奈ちゃん」
「んー?確か真っ黒な車で、エンブレムみたいなのがついてたウチによく来るような車だったぞ!」
叶奈ちゃんの家によく来るような車かぁ……きっとお金持ちの車だろう。でもまさかお嬢様かお坊ちゃまが叶奈ちゃん以外にもこの学校に居たとは。
この街中に二、三本しかない数少ない車道にすら余り車が通らないこの街で高級車という話を聞き、俺がそう考えているとガラガラと音を立て先生が戸を開けて教室へ入ってくる。
「はーい、みんな席に座ってー」
あ、先生来たか。
「じゃあまた後で」
「うん、また後で」
「ほーい!」
「分かった」
皆素直に直ぐ言うこと聞いてくれるいい子に育って千代はとても嬉しいです。本当にここ数年遊びながらしれっと教育して来たかいがあった。
じゃないと普通に体罰とかもあるからな、なんて二学期の予定を喋るであろう先生の前で思いながら、あっという間に話は進むと思っていた俺は……
「それじゃあまず皆に二学期の予定を話す前に、今日からこのクラスに転校生が入ります」
転校生だとォ!?
突如先生の発したその漫画ではよくある波乱を呼ぶ展開に思わず動揺し、いつも眠そうと言われるそのタレ目を大きく見開いていた。
ま、まさかそんな学園モノ王道テコ入れ展開である転校生が俺の人生で起こるとは……!これは胸熱じゃないか!
「転校生?」「他のとこから来たって事?」「男の子かなぁ?」「女子じゃね?」「どこからきたのかなぁー」「東京とか、大阪みたいな都会からじゃない!?」「どんな子だろー」
うんうん、みんな盛り上がってる盛り上がってる。そしたら次に来るのは定番の……
「はーい皆静かに!」
先生のこのセリフだよねぇー!くぅー!たまらん!
「はい、それじゃあ入ってきて貰いましょう」
お!とうとう本日のメインキター!
「大和くん、いらっしゃい」
「はい」
シンとした教室に扉越しの少しくぐもった声が響いた後ガラガラと戸が開かれ現れたのは……
「初めまして、神井大和と言います。皆さん、よろしくお願いします」
金髪の眩しいイケメンと言って全く差し支えの無い、女の子の理想である王子様そのまま体現したような、そんな男の子、神井大和という少年であった。
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