手のひらサイズの姫様はいかがですか?
@Lom0914
発見。
(やべぇもんを見つけちまった…)
男は目を大きく見開いて、目の前の信じ難いものをじっと見つめる。
「…て、こ…ら…て」
声は小さくて聞こえずらく、耳には届かない。
だが、それに耳を近付けると聞き取れるようになる。
「…ここから出してよ!」
そんな涙ながらに訴える声が―――
「よし、川に行こう。」
「え、マジで?」
友人の反田(たんだ)朱雀(すざ)がそんな事を唐突に言ってくる。
「湊(みなと)もどうせこの後暇だろ?」
「お前と一緒にすんな! 俺は高校に入学してからは勉学に勤しむって決めたんだよ。」
そう言いながら残り少ないお茶を口に含む。
「昨日も夜遅くまでゲームしてたくせに?」
「おまっ…! なぜそれを…ゴハッ、ゴハッ!!」
朱雀の言葉に驚いた湊は含んでいたお茶が器官に入りむせる。
「オンラインゲームは良いですなぁ〜」
そうニヤニヤしながら見せてきたのはスマホの画面。
そこに映っていたのは一枚のスクリーンショット写真。
「お前…!!」
「さ、ゲームより川で体動かした方が健康に良いぞ〜。 行くか!!」
(こいつと繋がっているゲームのフレンドは全て解除しておこう…)
「ふぅ…今の季節の川辺は涼しいな〜」
「せやな。」
そんな適当な返事をする湊。
それもそうだ。
今の湊の脳内には「ゲームがしたい」という欲求しか無かった。
(帰りてぇ。 なんの時間だよ)
そんな事を考えながら、丸くツルツルな石を手の中で転がしていた。
ただただ座ってのんびりしているだけの時間。
「なあ、そろそろ…」
「あのさ! 水切りしようぜ!!」
「はぁ…」
満足そうな笑みを浮かべた朱雀は遠くへ石を探しに行った。
(俺もやらないといけない雰囲気だな…)
そんなこんなでやらないといけなくなった。
(ここら辺は綺麗な丸いのが多いな…)、
そうして石を一つ一つ持って確認する。
嫌々やらされたとはいえ、いざやるとなると熱くなってしまうものだ。
「…ん? なんだあれ。」
石を探している湊の視界の端に空き瓶がある。
それもただの空き瓶ではない。
「何か生き物がいる…?」
疑問を抱いた湊は当然、瓶の方へと歩む。
水に半分浸かっている瓶を持ち上げるとそこにいた生物の姿が見えた。
「…!?」
「へい! いいの見つけたぜ!!」
「うひゃああ!…き、急に耳元で話しかけるな!!」
驚きのあまり普段は出さない、変な声を出してしまった。
「すまんよ。 ってかさ!見てくれよこの石!!」
そうやって自信満々に見せてきたのは水切りにすごく適していそうな石だった。
そんな朱雀を横目に湊は鞄にスっと瓶を放り投げるように入れた。
「あれ、湊はまだ石を見つけてないのか?」
「あ、ああ…」
少し動揺している湊に朱雀は疑問を抱く。
そして、朱雀は少し考えた後に手をポンっと叩く。
「もしかしてエロ本を見つけたのか!? 見せろよ!!」
「ちげーよ!!」
「いや、この動揺はエロ本だ! エロ本に決まっている!!」
今日もこの世界は平和です。
「――ただいま〜…」
「おかえり〜。 手、洗えよ〜。」
疲れ気味に家に帰ると仕事に疲れたのか母がソファーで溶けたチーズのように寝転んでいた。
洗面台に向かった湊は手をいつも以上に雑に洗うと、そそくさと自室へ向かった。
そして、部屋に入ると鍵をしっかりと閉める。
「…さて、あの瓶は…」
そうブツブツと言いながら鞄のチャックを開き、瓶を慎重に取り出す。
「…人…なのか…?」
瓶の中に入っていたのはこちらを見ながら泣き顔になっている全裸で十センチほどの大きさの少女。
初めて見る女の裸だったが何故か興奮は一切しなかった。
「…こから…して…」
少女は何かを訴えかけているようだった。
湊は少女に怪我をさせないよう、慎重に瓶を自らの耳に近付けた。
すると、今度は少女の声がハッキリと聞こえた。
「ここから出して!!」
そう涙ながらに訴えていた。
湊は瓶の栓を抜き、ゆっくりと瓶を傾けた。
そして、ゆっくりと少女は降りてくる。
「出してくれてありがとう!」
そんな声が微かに聞こえた。
感謝されるほどの事を自分はしたのだろうかと湊は感じる。
ただ偶然、瓶を拾っただけなのだから。
「…それで、頼みがあるんだけどさ。 全裸で寒いから布か何かを…」
そんな事を言いながら少し顔を赤らめる少女。
「ちょっと待ってて」
そう言い残して湊は部屋を出ていく。
「…ほらよ。」
そう言って柔らかい布を少女に被せる。
「ありがと。 じゃあさ、次、ご飯。」
少女が自分に恐怖を抱いていないのはいい事だが、この子は俺を召使いかなんかだと思ってないか?と少し不服に思いながらも鞄の中に入っているチョコを一粒与える。
「チョコでかっ! たらふく食えるじゃん!!」
そんな湊をよそに少女は一人盛り上がっている。
「…あのさ、それでお前はなんなの?」
湊のその問いに夢中でチョコを頬張りながら口周りにチョコをべっとりと付けた少女は答える。
「知らねーよ。 私もこの状況が分からねーんだから。」
そう言ってからまた少女はチョコを頬張る。
(知らねーのか…)
この先が不安しかない湊は少女の「チョコ、おかわり!!」という言葉に苛立ちを覚えたのだった。
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