アザゼルの孫たち
芳野まもる
序
満月の夜。Aは、魔女である女を、荒野にある寂しい丘に追いつめた。
魔女である女は、Aの顔を見て言った。
「あなたはいつかの……、あのケチな男ではありませんか。わたくしに何かご用がおありですか? ことによると、わたくしをこんな寂しい丘に追いつめたのは、わたくしをよってたかって羽交い絞めにし、わたくしの着ている衣服をはぎとって、わたくしを辱めようという算段ではありませんか? そんな回りくどいことをしなくとも、わたくしは、それなりの対価さえいただければ、あなたと寝たでしょうに。こんな犯罪まがいなことをした対価は、あなたが思っている以上に、高くつきますよ?」
Aは魔女である女に言った。
「あなたは一を言えば、それを十にして返す、おしゃべりな女だ。あいにく、わたしはここにあなたとおしゃべりをするために来たのではない。わたしは、今日、魔女であるあなたを滅ぼしに来た!」
Aは、彼のしもべたちとともに、この荒野に魔女である女を討ち滅ぼすために来た。
ここに至る経緯、Aとその「魔女である女」との因縁を物語るには、三年ほど時をさかのぼらなければならない。
――そうだ。三年でよろしい。Aが小学三年生のときから書き始めることはないし、ましてや、Aが三歳のときから書き始めることもない。
よし、わたしは、三年前から書こう!
むろん、三年前というのは、いまのわたしから見て、ではなく、Aがこの荒野に魔女である女を倒すために来たときからさかのぼって、三年前だということは、言わなくてもわかることだから、別に書く必要がなかった。
とはいえ、言わないとわからないこともあるわけだから、わたしは、三年前から書こう――。
Aが荒野の丘で魔女である女と対峙したときからさかのぼること三年前。Aは、まだ比較的まともで、高校生だった。
Aが徐々におかしくなるのは、彼の家族に問題があったのだと、多くの人が考えている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます