第101話 到着、握った手
部室で蒼乃を見つけた俺は設置されている椅子にちょこんと座りながら窓の外を眺めていた蒼乃に声をかけた。
「蒼乃、迎えにきたぞ」
そう声をかけるが俺の言葉に対する返答は無く、もう一度声をかけようとしたところで蒼乃は口を開いた。
「……なんのようですか」
ようやく話始めた声に気力は無く、ボロボロに打ちのめされているようだった。
「蒼乃を連れ戻しにきた」
「先輩はこんなところにいたらダメです。早く戻ってください……てちょっと何するんですか!?」
俺は迷うことなくウジウジとネガティブな発言をする蒼乃の腕を強く掴んだ。
そして体育館へ向かうために蒼乃の腕を強く引っ張る。
俺は蒼乃と長話をしに来たのではない。蒼乃を連れ戻しに来たのだ。こうしている間にも演劇は進んでいる。
なんとかこの間を繋いでくれているみんなのためにも早く蒼乃を連れ戻さなければならない。
「何するって決まってるだろ。蒼乃と体育館に向かうんだ」
「わ、私はもういいんです‼︎ 私は白太先輩に振られて、白太先輩は緑彩先輩と付き合うっていうハッピーエンドで観客は満足するはずじゃないですか。なんで私を連れ戻すんですか」
「蒼乃がいないとダメなんだよ。文芸部も、俺もな」
「今さらそんなこと言われたって訳わかんないですよ……」
蒼乃と会話をしながらも俺は歩みを止めず、蒼乃の手を引っ張りながら体育館へと向かっている。
そんな俺の手を振り払おうとする蒼乃だが、俺は蒼乃の腕を強く握っているためそう簡単に振り解くことは出来ない。
「は、離してください‼︎」
「いいや、離さない」
「なんでなんですか‼︎ 心では私を突き放しておいて、私が1人になろうとしたら腕を掴んで離さないなんてそんなの卑怯ですよ……」
蒼乃の言う通りだ。俺は卑怯でずるい、最低な人間だ。
それでも俺はもう決めた。この手を離さないと。
「ああ。俺は卑怯だ。だからこの手を離さない」
「なんなんですかそれ……。身も蓋もないじゃないですか……」
蒼乃に離せと言われた手を、俺は最後まで話すことなく蒼乃を体育館に連れてくることに成功した。
「白太‼︎ ……それに青木さんも。良かった。戻ってきてくれて」
「すまん。演劇の方は大丈夫か?」
「玄人と緑彩先輩がなんとか繋いでくれてる」
俺が蒼乃を連れ戻しに行っている間、玄人と緑彩先輩が2人でなんとか場を繋いでくれていたようだ。
「よし、蒼乃。2人の演技に一区切りついたら舞台に上がるぞ」
「ちょっと、話が急すぎますって。今さら私が舞台に上がったって何を言えばいいんですか」
「話が急すぎるってのはお互い様だろ。さっきの仕返しだ」
そう言って俺がしたり顔を見せると、蒼乃は、してやられた、と言う表情で目線を逸らすしかなかった。
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