第65話 必死、引き下がれない理由
俺は緑彩先輩よりも紫倉よりも遥かに大きな責任を感じながら蒼乃の捜索を続けている。
スマホを落としてしまい連絡が取れない蒼乃をこの広い山の中から探すのは容易ではない。
「白太くん、顔色が悪いようだけど体調が悪いの? 雨も降ってきてるし体調が悪い中で青木さんを探すのはナンセンスよ」
緑彩先輩の指摘通り俺は顔面蒼白だろうが、俺の顔色が悪いのは体調が悪いからではない。
蒼乃がいなくなってしまった原因は俺かも知れないと責任を感じているからだ。
だが、俺が予想している蒼乃がいなくなってしまった理由を今ここで緑彩先輩に伝えてしまえば、緑彩先輩は余計に責任を感じてしまう。
冷静な判断が出来なくなった緑彩先輩が夜の山道を歩いて蒼乃を捜索するのは危険性が高い。そうなると蒼乃を捜索する人員が減ってしまう。
蒼乃を見つける確率を下げるわけにはいかないので、緑彩先輩にはこの事実を秘密にしておく事にした。
問題はこれだけでは無い。
現状、緑彩先輩に安全なルートを教えてもらいなら蒼乃を捜索しているが、俺が緑彩先輩と2人で蒼乃を捜索していたら蒼乃は俺たちが名前を呼んでも出て来ないだろう。
ならば、ここは緑彩先輩と2人ではなく俺が1人で蒼乃を探さなければならない。
だが、それをどのように緑彩先輩に伝える? 俺が1人で蒼乃を探したいといえば疑問を持つだろうし、危険だからやめておけと静止させられるのがオチだろう。
適当に嘘をついて話を進めるのも得意ではないので、いつもどおり正面突破する事にした。
「緑彩先輩、俺はここから1人で蒼乃を探します。緑彩先輩は玄人達と合流して蒼乃を探して下さい」
「ダメよっ。白太くんが1人になってしまったら青木さんと同じように迷ってしまう可能性は高いし危険だわ」
予想通りの回答だ。だからといって引き下がるわけにもいかない。
「俺1人で探さないとダメなんです」
「その理由は?」
「今はまだ話せません。でも、俺が探してやらないとダメなんです」
緑彩先輩の反応は正しい。土地勘もない俺が急に夜の山の中で1人で蒼乃を探すと言えば不安になるのが当たり前だ。
でも、俺は引き下がるわけにはいかない。緑彩先輩、何とかここは引き下がって下さい……。
「……そう。分かったわ。私としてはあなたが1人で青木さんを捜索する事には反対だけど、白太くんがそう言うなら何か理由があるのよね」
「……はい」
「気をつけていってらっしゃい。あなたは青木さんの彼氏なんだから、こんな時はヒーローみたいに颯爽と駆けつけてあげないと」
そう言って肝試しルートの方へ歩いて行った緑彩先輩の後ろ姿にお礼をしてから俺は再び蒼乃の捜索を再開した。
蒼乃に聞こえるように喉が痛むほどの大声を出し、蒼乃の名前を叫びながら辺りを捜索する。
頼む、頼むから出てきてくれ。俺はお前がいないと……。
そう思った矢先、近くで誰かが鼻をすするような音が聞こえた。
この音……もしかして蒼乃か?
俺はその音が聞こえた大きな木の裏に走る。
その木の根本にはちょこんと座り込み、顔を足に蹲ている蒼乃の姿があった。
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