第63話 遭難、焦りの色は

 俺と緑彩先輩は真っ暗な山の中での会話を終え、ゴール地点へと向かうことにした。


 緑彩先輩と両思いだったことが判明して気分が盛り上がっているが、ゴール地点へは緑彩先輩と2人ではなく別々で戻るという冷静な判断をした。

 俺と緑彩先輩がゴール地点に2人で戻れば、なんと言われるか分からないからな。


 さっきまで俺と一緒にいた紅梨や、緑彩先輩とはぐれた玄人なら俺と緑彩先輩が2人で戻ってきても何も怪しまないかも知れないが、蒼乃は間違いなくこの状況を怪しむ。


 先輩とはいえまだまだかよわい高校生の女の子を1人でゴール地点まで返すのは心配だったが、緑彩先輩はこの辺りの地経に詳しいだろうし恐らく大丈夫だろう。


 緑彩先輩とは思わず話し込んでしまったため、ゴール地点には俺たち以外の部員が帰ってきているはず。ゴール地点に近づくと俺を待つ部員の姿が見えきた。


 その中には緑彩先輩の姿もあり、無事に到着していることを確認して胸を撫で下ろす。


「白石先輩‼︎」


 俺の姿を確認するや否や、紫倉が大声で俺の名前を呼んだ。


 紫倉は普段大声を出すようなタイプではないし、聞いたこともないような大声に何事かと小走りでゴール地点に向かった。


「どうした? 血相変えて。本当に幽霊でも出たか?」

「蒼乃が……、蒼乃が見つからないんです」


 そう言われてゴール地点にいるメンバーを確認すると確かに蒼乃の姿が見当たらない。俺は緑彩先輩の安否を確認することに気を取られて周りが見えていなかったようだ。


 血相を変え、今にも泣き出してしまいそうな表情の紫倉は右へ左へ動き回り落ち着きがない。


「紫倉は蒼乃とペアで一緒に帰ってきたんじゃないのか?」

「途中までは一緒だったんですけど……。途中で草むらから聞こえた物音に驚いて何処かへ走っていってしまったんです。一応蒼乃の名前を呼びながら辺りを探し回って見たんですけど反応がなくて……」

「そうか。1人で奥まで探しに行くのは危ないからな。いい判断だ。とりあえず深呼吸して、いったん落ち着け」


 蒼乃とはぐれてしまい、蒼乃を見つけられなかったことに責任を感じでいる様子の紫倉を落ち着かせ、手分けして全員で蒼乃を探すことにした。


「とりあえず玄人と紫倉、緑彩先輩と紅梨はペアになって蒼乃を探してください。俺は1人で蒼乃を探すんで」

「白太、落ち着けよ。1人で探したらお前まで山の中で迷うかもしれないだろ?」

「何言ってんだ。俺は落ち着いてる。だからこうしてみんなで探しに行こうと……」

「白太、お前だけすごい汗だ。あからさまに焦ってる」


 玄人に指摘されるまで気がつかなかったが、山道では汗など全くかいなかったと言うのに、今は身体中から汗が吹き出している。

 紫倉に落ち着けと言っておきながら、誰よりも焦っていたのは俺だったようだ。

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