第62話 絶望、分かっていても耐えられない

「ちょっと、くっつきすぎだって」

「怖いんだから仕方ないでしょ‼︎」


 くじで3番を引いてしまった私たちは最後に肝試しに出発した。 

 肝試しでの最後の順番は後ろから次のペアが来るという安心感が無く、大外れと言える。


 せめて白太先輩と一緒ならこんな夜の山道も怖くなかっただろうな……。


「まぁ白石先輩と一緒になれなかったのは可哀想だけどさ。私はこーゆーの全然怖くないから良いけど。まぁ欲を言えば私も玄人くんと一緒に回れたら良かったなとは思うけど」

「紫音、本当変わったよね。昔は紫音がそうやって男の人と仲良くなるなんて思ってなかったな」

「蒼乃のおかげよ。蒼乃が白石先輩と付き合ってくれてたから、私も玄人くんと出会えたわけだし」


 修学旅行のホテルの部屋でするような女子会トークをしていると、夜の山道に対する恐怖感は自然と薄れた。


「お互い良い人に出会えてよかったね。私も白太先輩みたいな素敵な人に出会えるなんて思ってなかったし」

「そうだね。大事にしてもらいなよ」

 恐怖の肝試しはいつの間にか紫音と2人きりで話す女子会へと変わり、幽霊が出る事も無くあっという間にゴール直前までやってきた。

 あと100メートル程でゴールに到着するという状況に私は安堵して気を緩めた。


 その時、急に草むらから大きな物音が聞こえた。


「キャアァァ‼︎」


 立沢の物音に私は叫び声を上げて無我夢中で走り出した。


「え、ちょっと蒼乃⁉︎ どこ行くの⁉︎ 待ってぇ‼︎」


 紫音の声が聞こえた気がしたが、恐怖のあまりその声は耳に入らず、夢中で夜の山道を走り抜けた。


 しばらく走って心が落ち着き、息を整えて状況を確認すると、真っ暗な山の中で何処にいるかも分からず遭難状態になっていた。


 これはまずいな……。


 スマホの画面を見るが、ポケットに入っていたはずの携帯は走っていた時に落としてしまったようでどこを探しても見当たらない。


「はぁぁぁぁ。どうしよう……」


 路頭に迷っている私は大きなため息をこぼしながらしばらく歩き続ける。

 しかし、帰り道は分からない。むやみに動くと本当に遭難してしまいそうだったので力なくその場に座り込んだ。


 はぁ。こんな時に白太先輩が出会った時の様に助けに来てくれたらなぁ。

 なんて思って夜空を眺めていると、どこからか白太先輩の声が聞こえた気がした。


 まさか白太先輩が近くに?


 私は夢中になり声の聞こえた方向へと走りだす。1人になって感じていた心細さは白太先輩に会えば無くなるし、それどころか私は一気に気分が昂るだろう。


 そして、ようやく白太先輩を見つけた。安心した私はすぐに話しかけようとしたが、白太先輩と一緒にいるのは……緑彩先輩?


 なぜ白太先輩と緑川先輩が一緒に……?


 あの2人は肝試しのペアでは無かったはず。それに、白太先輩のペアである赤松先輩と、緑川先輩のペアである黒瀬先輩が見当たらない。


 不思議に思った私はしばらく2人の会話を陰から見守ることに。


 そう思った矢先、私の耳に予想外の言葉が飛び込んできた。


「緑彩先輩の事が好きです‼︎」


 私の心は白太先輩を見つけた喜びから一気に地面に叩き落とされることになった。

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