第4章
第49話 立腹、頬を膨らませる彼女
緑彩先輩と2人で出かけた1日は一瞬で過ぎ、今日は蒼乃と2人で学校に登校している。
というのも、俺たちが付き合っているのは周知の事実となってしまい、玄人は紫倉と登下校を共にし始めたので2人で登下校を始めたのだ。
ただ、今日の朝は些か蒼乃の機嫌が損なわれている。
理由は何故かと考えるまでもない。
「ごめんって。でも5分も過ぎてないんだから良いじゃないか」
「約束は約束です。1分だろうが1秒だろうが、約束を破られれば機嫌が悪くなるのも仕方がないじゃないですか」
緑彩先輩と2人で遊びに行った帰り、蒼乃と約束した21時までに帰宅しようと最寄駅から自宅まで全力で走ったが、自宅に到着するのが約1分遅れてしまった。
1分だけの遅れなら自宅に到着する前に、もう家に着いた、とだけ連絡しておけば、蒼乃が俺の自宅付近で俺を見張ってでもいない限り気付かれることは無い。
しかし、俺を信頼して緑彩先輩とのお出かけに送り出してくれた蒼乃の事を考えると、嘘をつくことは出来なかった。
「それもそうだな。俺が全面的に悪い。すまんかった」
「最初からそう素直に謝ってくれれば私だって怒らずに済んだじゃないですか……」
蒼乃はソワソワした様子で俺を見たり目を逸らしたり。
なにやら逡巡している様子の蒼乃は覚悟を決たようで、よしっ、と呟きながらこちらを向く。
「私も怒ってごめんなさい‼︎」
「うぉっ⁉︎」
急に蒼乃が謝りながら俺に強く抱きついて来た。
「え、ちょっと待ってここ通学路だから。他の生徒に見られたら恥ずかしいから‼︎」
「良いじゃないですかー。土日は先輩と会うの我慢してたんですから」
「というか、蒼乃が謝る必要ないだろ。さっきも言ったけど、悪いのは全面的に俺だ」
「いえ、たかが1分程度の遅れを許せない彼女なんて、きっと好きになってもらえないだろうなぁと思って」
相変わらずの天使っぷりを発揮する蒼乃。
聞こえておらず失敗に終わったとはいえ、土曜日に緑彩先輩に告白したことに対する罪悪感で俺の頭は支配された。
「それは寛容すぎる考え方だな」
「いえいえ。それに、駅から家まで、先輩が21時に家に到着するように全力で走ってたんじゃないかって想像したら可愛いなーって、思ったんです」
いや、可愛いのは君の方だよほんと。
こんなに可愛い子と付き合っておきながら本当に俺って最悪なやつだな。何度同じ事を繰り返すのだろうか……。
「それじゃあ先輩、また部活で。大好きですよっ」
学校に到着すると手で口元を隠し、小声でそう伝えてくる蒼乃が可愛くて堪らず、俺の罪悪感は大きさを増していくばかりだった。
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