第34話 虚無、置いていかれた私

 白太くんと青木さんが付き合ってるだなんて、そ、そんなの何かの冗談に決まって……。


「……あぁ。嘘じゃない。事実だ」


 白太くんの言葉を聞いた私は凍りついた。


 え、な、なんで? 


 去年のクリスマスには私に告白してくれたのに、4月に出会ったばかりの青木さんと付き合ってるっていうの?


 白太くんと青木さんが本当に付き合っているのか、その真相が気になって仕方がない。

 そんな私は教室内で一悶着終えた青木さんが教室から出てくるところを捕まえ、昇降口まで連れてきた。


「は、白太くんと付き合ってるっていうのは本当なの?」

「本当ですが、何か?」


 く、食い気味の返事……。この表情、声のトーン、間違いない。青木さんは嘘をついていない。

 白太くんと青木さんが付き合っているというのは紛れもない事実のようだ。


 ただ白太くんに新しい本を自慢しようとしただけなのに、こんなことになるなんて……。


「私からも質問です。緑川先輩、白太先輩のこと好きですよね?」

「え、えぇ⁉︎ 私が⁉︎ 白太くんを⁉︎ そ、そんなわけないじゃない‼︎」


 青木さんからの質問は正しい。確かに私は白太くんのことが好きだけど、そんな恥ずかしいことをこの場で言えだなんて……。


「先輩……。真剣な話です」


 そう言って私を見つめる青木さんの視線は何よりも真っ直ぐ、私と向き合おうとしている目だった。その勢いに気圧されて体が強張る。


「……なんで分かったの? 私が白太くんを好きだって」

「私と同じだからです。私も白太先輩が好きなんですよ? 緑川先輩が白太先輩を好きなことは緑川先輩の行動を見ていればすぐに分かりました」

「そうなのね……。私は全然分からなかったけど」

「もう一つ質問です。なんで白太先輩の告白を断ったんですか?」


 ――え? 青木さん、もうそこまで知っているの?


 ……いや、それもそうか。白太くんと付き合っているのであれば、白太くんがその話を青木さんにしていても違和感は無い。


「私は東音浜大学を目指しているの。私が白太くんに告白されたときにその告白を受け入れていたとしたら、歯止めが効かなくなって勉強なんてそっちのけで白太くんと遊び倒していたと思うわ。だから告白を断ったのよ」

「……まぁまぁ正当な理由ですね。納得しました」


 意外と簡単に納得してくれたことに拍子抜けしつつも胸を撫で下ろした。


「でもそれだけですか?」

「……え?」

「緑川先輩が白太先輩からの告白を断ったのは本当にそれだけの理由だったのかって聞いてるんです」


 青木さんの質問の意味が分からない。私が白太くんの告白を断った理由はさっき言ったとおり学業に専念するため。それと、私では白太くんと釣り合わない、そう思ったからだ。


 それ以外に理由なんて無い。


「本当にそれだけよ」

「……そうですか。ならいいです。でも、緑川先輩が白太先輩を振ったことで、これまで白太先輩が酷い仕打ちを受けていたことを忘れないでください。緑川先輩とは違って私は心の底から白太先輩が大好きです。誰にも渡しませんから‼︎」


 ため息をつくように喋り出した青木さんは最後に強気な発言を残して去って行った。


 青木さんが去った後も、私は白太くんと青木さんが付き合っているという事実を受け入れられず、1時間目の開始時間になってもその場から動くことが出来なかった。

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