第15話 撮影、シャッターの直前に

 写真を撮る列には家族連れや、俺たち以外のカップルが何組か並んでいる。


 偽りとまでは言わないが、本当に青木のことが好きで付き合っている訳ではない俺は青木と付き合っている実感が全く無い。

 だが、男女二人でこの列に並んでいる俺たちも周りから見れば一応カップルには見えるのだろう。


「先輩、どんなポーズで写真撮ります?」

「ポーズなんてテキトーで良いだろ」

「えー良くないですよ。まぁ白太先輩、写真とかあんまり撮らなさそうですもんね。スタッフさんの言う通りにしましょっか」


 青木に呆れたような素振りを見せる。

 仕方ないじゃん。彼女出来たことないし、自撮りなんてしたことないもん。


 そして俺たちの撮影の順番が回って来た。


 スタッフに促され、青木がスマホを取り出しスタッフに渡す。


「はい、それじゃあお2人もっと真ん中に寄ってくださーい」

「ほら、先輩もっとこっち来てください」

「バ、バカ言え。それじゃあ体と体がくっつくじゃねぇか」

「付き合ってるんだからそれくらい普通ですよ‼︎ ほら‼︎」


 青木は自分の頬を俺の頬にくっつけるくらいの勢いで顔を近づけてくる。青木を助けたときとぬいぐるみ姿で抱きつかれたときにした匂いと同じ甘い香りが漂ってくる。 


「はいそれじゃあ撮影しまーす。ハイチーズ」


 そしてフラッシュが焚かれた瞬間、俺の頬に柔らかくて暖かい感触が触れる。


「――え?」

「どうかしました?」

「今何かほっぺに当たったような……」

「指ですよ指。先輩のほっぺを突っつくポーズで写真が撮りたくて」

「え、でも指より柔らかかったような……」

「気のせいですよ」


 今のは本当に青木の指なのか?


 指にしては柔らかい感触だったし、突っつかれたと言うよりも、触れられたと言う感触だったが……。


「白太先輩、私がほっぺにキスしたと思ってます?」

「い、いや、そう言うわけじゃ……」

「まぁ白太先輩のほっぺファーストキスをいただけるって考えたらそれもありですけどね」

「待て、なんでほっぺキスがファーストだって分かるんだ」

「じゃあファーストじゃないんですか?」

「ファーストだけど」

「ほらやっぱり」


 焦る俺をよそにスタッフに撮影してもらった写真を確認する青木。

 スタッフに大丈夫ですか?と尋ねられ、笑顔で大丈夫ですと返答して俺たちは撮影スペースを出た。


「写真、どんな感じだった?」

「良い感じです‼︎」


 青木は俺の返答に眩しい程の笑みを見せるが、何故か写真を見せようとしてくれない。


「一回見せてくれよ」

「嫌でーす。私、変な顔になってるので」

「良い感じなんじゃないのかよ」

「はい、良い写真ですよ‼︎」


 そう言ってしたり顔を見せる青木の頬が若干赤く見えたのは、俺の都合のいい気のせいなのだろうか。

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