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とりあえず、ぼくは一通り映画を最初から最後まで早送りした。字幕があるので、早送りしても何となくストーリーは分かる。やはり一度見ただけでは結構忘れているものだ。
だけど……
100分の長さの映画を30分にするのは、思ったよりも大変な作業だ。かなり大胆にアレンジしないといけない。一回や二回見たところで、できそうな気がしない。
そうこうしているうちに、いつの間にか時計は6時を回っていた。もう帰らないと。
「あら、ご飯食べていかない?」彼女のお母さんだった。
「いえ、ウチでもぼくの分の夕飯作ってますから」
「そう……そしたら、またいらっしゃい。今度はお家の人にも話して、こっちでご飯を食べる事にして、ね」
え、また来て……いいの?
思わずぼくは高科さんの顔を見る。すると、彼女はコクンとうなずいた。
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なんだかんだで、その後もぼくは高科さんの家に何度もお邪魔していた。時々夕飯も一緒に食べたりした。ちなみに彼女のお父さんはいつも帰りが遅いらしく、夕飯はあまり一緒に食べないんだそうだ。あと、これだけ彼女の家を訪ねていたら、もし彼女に兄弟姉妹がいたら出くわしそうなものだけど、そういう人たちにも今まで出会ったことは一度もない。聞いてみたら、どうやら彼女は一人っ子らしい。ぼくと一緒じゃないか。
そうなるとますます親近感がわいてしまう。だけど、ぼくには親友の隆司がいるし、他にも一緒に遊ぶ友達が何人かいるけど、高科さんはいつもクラスではポツンとしていてそういう友達がいる感じがない。だからと言って彼女が寂しそうにしているかというと、そんな様子も見たことがない。
それでも、こうしてぼくと一緒に映画を見たりシナリオを考えたりするのは、嫌じゃないらしい。ぼくとしては嬉しいけど……やっぱ、よくわかんない女の子だな……
とりあえず、そんな感じでぼくは高科さんと何度もLDの映像を見続けた。そして、どこを捨ててどこを活かすか、ぼくなりの考えもまとまってきた。
一番の問題は、「リナ」の扱いだった。「リナ」はヒロインの「キャシー」をいじめる悪役なのだが、中田先生としてはあまり悪役にしてほしくない、ということだった。確かにぼくも、映画の中の「リナ」の扱いはちょっとかわいそうだな、と思っていた。だけど、「リナ」の吹き替えを「キャシー」がやっていたことがバレる、という最後のオチを考えると、やはりどうしても「リナ」には悪役に徹してもらうしかない……
そこで、高科さんが言った。
「『リナ』が良心の
あ、それ……いいかも!
「そのアイデアいただき! あ、なんか、妄想がめっちゃ溢れてきた……よおし! 書くぞ!」
ぼくは自分のノートパソコンのキーボードを、すさまじい速さでタイプし始めた。こうなるともう止まらない。妄想が枯れるまで、ひたすら文字を打ち続ける。
ちなみに今ぼくが使っているノートパソコンは、父さんのお下がり……というか、液晶割れててジャンクで安かったから、という理由で父さんが買ってきたヤツだ。まだそんなに古くないし、小さくて軽くて、すごくサクサク動いてくれる。父さんがセキュリティをガチガチに固めてるので、アダルトなサイトとかは見られないけど。
さすがに買ってきた当時は画面が一部しか映らない状態だったらしいが、恐ろしい事に父さんはどこかから液晶だけを入手して交換し、全く問題なく動くようにしてしまった。ほんと、父さんの家電製品の修理スキルはすごいと思う。
それはともかく。
そんな感じでシナリオ執筆に熱中していたぼくも、休みなしに一時間近くタイピングしていると、さすがに集中力が切れてきた。ちょっと休憩。そんな時、高科さんが声をかけてきた。
「ねえ、翔太君」
「なに?」
「翔太君は、どんな音楽聴くの?」
「音楽? ぼくは……うーん。ゲーム音楽かなあ。ゲーム好きだから、ゲームのサントラとか、良く聞くけど……そんな感じかな。高科さんは、やっぱクラシックしか聴かないの?」
「そんなことないよ。わたし、音楽は結構、何でも好きかな。Jポップも聴くし、洋楽も聴くし、ロックもヒップホップも……ジャズも演歌も、何でも聴くよ」
「演歌も聴くの?」ぼくはちょっと驚いた。
「うん。昔の人だけど、美空ひばりとか」
渋い……渋すぎる……
「だけど、やっぱりピアノ曲が一番好きかな。翔太君は、ピアノ曲は聴かないの?」
「うーん……進んで聴きたいとは思わないけど……あ、でも、音楽の時間に聴いた、あの曲……結構好きだったんだけど、何て言ったっけな、静かな感じの……」
「メロディは? 覚えてる?」
「ええと……ポン、ポーン、ポーン……ポポポーン……みたいな……」
「ドビュッシーの『月の光』だね」
すごい。音程とか全然自信なかったのに、分かっちゃうんだ。
「弾いてあげようか」
「ええっ?」
ぼくは思わず高科さんの顔を見る。無表情……だが、最近、少しだけ彼女の表情が読めるようになった。今、彼女の顔に浮かんでいるのは……ちょっと、ニヤニヤした感じの表情だ。ほんの少しだけ、口角が上がっている。
「ちょうど、指を動かしたかったところなんだよね。わたしの部屋においでよ」
え、ええー? 彼女の部屋に、ご招待……?
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