写真の中に詰め込んで

華宵

通学路



「傘を持ちながら写真を撮る時はスマホが一番...」


季節は春、今日は桜を撮るつもりだったのに...雨の日は妹の好きなカエルを撮ることになっている。


「はぁ、相変わらず写真撮ってるのね」

カシャッ

条件反射で話しかけてきた相手の写真をとる。


「その条件反射で写真を撮るくせ、治せないの?」

相手は誰なのかは声で分かる。幼馴染みの鞍本華織くらもとかおり。学校では陸上部であり、生徒会長の優等生だ。


「頑張る...華織はどうしてここに?」

「別に、今から学校でしょ?偶然見かけたから声をかけただけ」


この場所は学校と真逆の場所にあるし、偶然はありえないんだけど...

「もう少ししたら行く、だから気にしないで...」


カエル、まだ撮れてない、撮ってくるって妹と..美桜みおと約束したんだ、お兄ちゃんは約束を破らないものだって美桜は言ってたんだ、お兄ちゃんとして破る訳にはいかない。


「ダメ、今から学校に向かわなきゃ遅刻するわ」

「別に昨日も遅刻したから大丈夫だよ...」


物凄い冷たい目でこっちを見てくる、とりあえず黙って撮っておこう。


カシャッ


「もう一度言うわ、学校に行くわよ?」

「だから先に行って....」

目の前で華織がスマホを取り出し、操作する。そしてこちらの方に画面を見せてくる。

画面には誰かの連絡先が出ているようだ。


「舞佳先輩に言うわよ?」

「.....」

柳舞佳やなぎまいか先輩、僕の所属している美術部の部長であり、2人しか居ない美術部員のもう1人....怒るとすごく怖い。いつもは面倒なぐらい絡んでくるのにそういう所はちゃんとしてる...


「行く....」

「そっ、じゃあ行きましょう」


こうして華織と学校へ向かいながらもカエルを探す、僕はあまりカエルが好きじゃないんだけど..美桜からしたら可愛く見えるらしい。不思議だなぁ...


「そろそろ髪を切ったらどうなの?不衛生よ」

華織がいきなり会話を降ってくる。

「不衛生って...少し伸びてるだけだし」


髪の長さは目元が少し隠れるくらいだ、これぐらいなら別に大丈夫だと思うけど....


「ところでだけど、この学校を選ぶ時にあんたが写ってるパンフレットを見て入学を決めた女子生徒も少なくないみたいね」


蘇る苦い記憶、髪を整えて制服もきちんと着て華織と撮った1枚の写真、それをパンフレットに載せたところ、入学希望者が増えたらしい。


「だって華織と先生にカメラの使用と引き換えって条件を出されてお願いされたら断れないよ...って、それと髪の毛の長さの何が関係してるの?」


すると、疲れた顔をしながら話を続け出す華織。

「あんた、1年生が入学してから1年生に声かけられた?」

「まだ1度も話しかけられてない」


なんだろう、部活にも後輩がいない僕達への嫌味かな?


「あぁ..もう!あんたのせいよ、あんたのせいで生徒会は大変な事になってるの!」

「...僕?」


身に覚えもないし、生徒会との関係は...華織だけなんだけど..


「そうよ、あんたのせいで!パンフレットの先輩は誰かって聞きに来る子が沢山いるのよ!」


(僕のせいかな....?)

「あんたが髪を切ってくれるだけで全てが片付けられるの、だから大人しく切って!」

「....まだ寒いからお断り」


そんな話をしていると、華織の後ろから女子の声が聞こえてくる。

「「華織先輩〜!」」


「おはよう、2人とも。朝から走って来てどうしたの?」

(華織が先輩っぽい話し方になった?口調をよく一瞬で変えられるなぁ)

「おはようございます〜!あっ、もしかして、もしかしてぇ!その人が華織先輩の噂の彼氏さんですか?!」


「え...」

「違う!こいつは幼馴染の腐れ縁なだけで!全然そんな事ない!」

華織に彼氏がいるなんて、めでたいことだ。

「華織って彼氏いたんだ...おめでとう」

「違う!彼氏なんていない!」


なんか慌ててるな、本当はいるんだろうなぁ..華織は優しいから彼女のいない僕に気を使ってるんだろう。


「でも先輩この前...『あいつが彼氏だったら..』って、あいたたたた!」

「あぁぁぁ?!黙って黙って!ちょっと先に行ってる!また後で〜!」


後輩2人を連れて先に行ってしまった、流石陸上部。元気がいいなぁ...とりあえず。


「カエル探しに行こう...」

そう思って後ろを振り返ると...


「今から学校でしょう?どこに行くのかなぁ〜不嶋奏ふしまかなで君?」


舞佳先輩が笑顔で仁王立ちしていた、仕方ないので僕も華織を追いかけるよう学校への道を歩き出すことになった..

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