四年に一度の悲劇
飽き性な暇人
第1話
ドサッ......
重々しい音が自宅の庭に広がる。そこには優しそうな笑みを浮かべた男と目の前には頭から大量の意を流している女性が倒れている。
彼の手には血塗られた拳銃が握られていた。
でも彼は驚かずにその光景から目をそらさずにじっと見ていた。
そして彼の顔から笑みが消え、涙が出ていた。
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俺が最初に彼女に出会った時は八年前、俺が二十二歳のときだ。
当時の俺は今と同様、魔人取締官、通称マトリの職についていた。
マトリとは魔人を取り締まる職のことで、現代社会における魔物と人が共存するこの世界において社会の秩序を保つ重要な役職だ。そのため普段から拳銃の携帯も許可されている。もちろん不正に使用したりすると思い罰則が下される。
二月二十八日の夜、普段より遅く勤務を終え、俺は夜の十二時前に帰路についていた。マトリは任務によっては遅くなることも珍しくない。
その任務で遅くなった日は鼻歌を歌いながら帰るのが日課になっている。真昼に鼻歌を歌っていたら変な目で見られるが、真夜中であれば問題なし。人に見つからないように、みたいなスリルもこの楽しみだった。
いつものように鼻歌を歌いながら家に向かって歩いていた。
その角を曲がれば家が見えるという角を曲がった時、人が走っているのが見えた。と言ってもそれは至近距離まで迫っていて———
ドンっと重々しい音を立ててぶつかった。不意なことで二人とも床に手をついていた。
俺は職業柄、それなりに鍛えていたので怪我なのはなかったが、相手の人は大丈夫だろうか。
もし女性だったら怪我をしていてもおかしくない。
普通に歩いている人とぶつかるぐらいだったら相手のことより真っ先に鼻歌を聞かれてるかもしれないという羞恥心に顔を赤くするところだったが、さすがにここは相手への心配が先にきた。
「大丈夫ですか!?」
俺は倒れている人のそばに素早くかけよった。一瞥すると、長い髪が目に入った。そうやら女性のようだった。自分から顔が見えないような感じで倒れていたので顔は確認できなかったが、華奢な体からしても女性で間違い無いだろう。
怪我をしている可能性もあるので体を支えようと体に触れる瞬間、女性が鬼気迫る顔で俺に倒れかかってきた。
当然、いきなり女性に寄りつかれて平然でいられるわけもなく、自分の顔が熱くなっているのを感じた。
「ど、どうしたんですか?」
声をかけながら女性の方を見る。すると、様子が変なことに気づいた。女性は俯きながら震えていて、
[......ねがい......」
と何かをつぶやいているようだった。アスファルトにはシミができている。涙を流しているのだろう。
女性がこんな真夜中に一人でこんな状態になりながら走っているのを見ると、何か良からぬことが起きているかもしれない。
俺は、事件性を感じて懐にしまってある拳銃に手をかけた。そして、女性を落ち着かせるために声をかけた。
「......大丈夫で」
「お願い、私を殺して! 早く!!」
鬼気迫った声と同時に女性がこちらに顔を向けた。まさに容姿端麗という言葉が似合う顔だった。その黒に染まった片目と顔半分が竜の鱗のように硬化した肌さえなければ。
その姿は、まるで半分が魔人になっているかのようだった。
「なっ!?......」
俺はその醜い顔見たとき、本能からの恐怖に思わず、後ろに手をついき、尻もちをついてしまった。
本来、マトリならこんなことで驚いてはいけないのだろう。しかし、勤務が終わった後の気の抜けた状態でこの状況では無理もなかった。
「ねえ!! お願いします、早く私を.......。お願いしますっ」
女性なのか魔人なのかわからない生き物は驚いた様子の俺のことはお構いなしに必死で懇願してくる。
なんなんだ、これ?
俺の目の前には醜い生き物もはや怪物とも言えるだろう、そいつが涙を流しながら自分を殺せなどと言ってくる。
その異様な光景がますます恐怖を増大させていく。
「......ぁあっ.......」
うまく声が出せない。
俺は恐怖で自分の置かれた状況が理解できないほどに混乱していた。
思考が止まり、呼吸もうまくできなくなった。体もうごかせなくなり、次第に周りの声も音もぼんやりと消えていく。
「その子から離れろ!!」
いきなり発せられた声が鼓膜を揺らした。
それが俺の意識を取り戻した。
動かない首のかわりに目を動かして声のした方を見るとガタイの良いマトリの制服を着た角刈りの初老の男が拳銃を向けて立っていた。
「......っは」
その言葉を聞いてなんとか息を吸った。
それで思考を取り戻した俺はなんとか怪物から離れようと、自分の尻をひきづりながら足を使いなんとか距離を離した。
———と同時にさっきの声よりも大きく鋭い音が俺の鼓膜を激しく揺らした。
思わず目をつぶってしまった。
数秒たち、目を開けると目の前いたはずの怪物はその場で仰向けで倒れ、頭から血を流していた。が、そいつから流れる血は止まりかけていた。と同時に、負けものの顔が人間のものに変わっていた。
男の方を見ると、何も言わず拳銃を持っていた手をだらんと垂らし、唇を噛みながら怪物の死体を見ていた。その時、唇からは血が流れていた。
「はぁ、はぁ、はぁ.......」
自分のいまの状況を確認し、呼吸できるようになった。
助かった......
そう思うと安心感でまぶたが重くなり、そのまま意識はなくなった。
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意識を戻した時は、二十九日の朝だった。
俺は近くの病院な搬送されていた。
その時、傍らには昨日、怪物を射殺した男がいた。そして、そこで全てを話された。
あの怪物は男の娘だということ。
名前は今井結女。その娘が魔人である男の妻と人間である男の子供だということ。
その娘は普段は普通の人間として過ごしているが、うるう年のときに蓄積された魔の力が娘を暴走させてしまうこと。
そして、その暴走を止めるには暴走させる前に殺し、魔の力を自己再生に使わせること。
当時、結女さんは二十歳だった。つまり、この男は実の娘を今まで五回も殺してきたということだ。
科学的に証明されていたとしても、本当に生き返るのかは怪しい。しかも、実のひとり娘を自分の手で殺さなければならない。
俺はこの事実を知った時、俺は何も言葉をかけられなかった。
話を終え、帰ろうとした時「娘にあっていくと良い。それがたら馬には無くなるだろう」と言われた。
昨日のトラウマを思い出すのは嫌だったので、少々迷ったがその後の容態や素顔が気になっていたので少しだけ覗く程度にしようと思う。
伝えられた病室の前まで来て、隙間から覗くことにした。
中には、陽に照らされたベッドの上で体を起こし外を見ている人の横顔があった。
そこには昨日の醜い姿はなく、黒髪で顔の整ったに太陽の陽を反射して、眩しいほどに光る白い肌。
俺は思わず見とれてしまった。そして無意識に前のめりになり、病室のドアの音を立ててしまった。
その音に気づいて、彼女が振り返る。
俺はベッドの上の天使と目があった。そして、少し苦笑いしていた。
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この後、俺と結女さんは付き合い始め、結婚した。
付き合い始めた時はそれなりの覚悟を持って付き合っていた。もちろんそれは彼女が魔人であること、そして四年に一度殺されないといけないこと、そして自分にその役目がまわって来る可能性があること。
その覚悟は揺るがないと思っていた。
しかし、交際期間が長くなっていくごとに俺の覚悟は揺らいで行った。デートに行くたびに彼女の可愛らしい仕草に気づく。一緒に過ごしてるだけで幸せになれる。こんな彼女を殺すことができるのか。自分には判断がつかなかった。
だから、俺は彼女にプロポーズした。これは彼女を幸せにしたいということもあったが、自分自身にけじめをつけるためでもあった。
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そして、彼女と出会ってから一回目のうるう年の二月二十八日。
俺は結女の父親と庭に出ていた。俺は彼女の頭に銃をつきたてたが、どうしても引き金を引けなかった。
出るのは、涙だけだった。そんな俺を見て彼女は俺に微笑みかけた。
無理しなくて良いよ。
そんな言葉をかけてくれた。俺は唇を血が出るほど強く噛み、うめき声をあげながら引き金を引いた。
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それから四年後、俺と彼女だけ外に出ていた。今回、結女の父親はいない。俺は彼女に最後まで笑いかけていた。
彼女に銃をつきたてていても笑っていた。彼女に余計な不安を与えたくなかったからだ。
でも彼女には通用しなかった。彼女は四年前と同様、微笑んでいた。
無理しなくて良いよ。
その言葉を聞いた途端、俺は引き金を引いていた。
その瞬間、俺の涙を見られてしまっただろうか。
俺はまだ笑っていた。でも、その笑みはすぐに消え、目からは涙が止まらなかった。
四年に一度の悲劇 飽き性な暇人 @himajin-akishou
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