あの日のこと
ネオン
不思議なお祭り
僕は今日家出した。
といっても、ついさっき親と喧嘩して飛び出してきたんだけど。
だから何も持っていない。
つい、飛び出してきてしまったが、さて、この後どうしようかな?
僕はいわゆるお金持ちの子供だ。
親が医者で、僕にも医者になれといつも言ってくる。
僕は医者にはなりたくない。
僕にはなりたいものがあるから。
さっき僕の本心を親に伝えたら何故かキレられた。
理解不能だ。
どうやら両親は自分たちの望み通りに僕が医者になるものだと思っていたらしい。
自分の子供だからって思い通りに育つわけじゃねえのにな。
あいつらの顔は今は見たくねえ。
いま山にある別荘に来ているからちょうどいい、少し冒険だ。
いつも別荘に来ても勉強しろ、と言われて部屋に閉じ込められていた。
家からは出してもらえない。
1時間おきに見にくる。
そして、勉強していないと怒る。
まあ、つまりほぼ監禁状態な訳だ。
本当に、どんだけ理想の息子にしたいんだか、呆れるほどだ。
だから、別荘から外に出るのは初めてだ。
取り敢えず適当に進んでみようか。
スマホは持ってきてないから地図は見れない。
スマホなんて持ってきたらGPSですぐに居場所がばれて連れ戻される。
過保護というか何というか。
適当に歩いてどのくらい経っただろうか。
急に辺りが暗くなった。
そしてどこからか人々の楽しそうな声が聞こえてくる。
声のする方は進んでみるとだんだん明かりが見えてきた。
どうやらお祭りが行われているようだ。
初めてだ、お祭りに来るのは。
屋台が沢山ある。
取り敢えずポケットを探ってみると数百円だけあった。
そのお金で、ちょうどお腹も空いていたので、たこ焼きを買って食べた。
美味しい。
そして、しばらく歩いていると、盆踊りらしきものを踊っている人たちがいた。
さらに進むと神社が見えてきた。
取り敢えずその神社の階段に座って休むことにした。
しばらく休んでいると、ある少女に話しかけられた。
「君はどうしてここにいるの?」
「なんか、歩いていたら迷い込んじゃって」
「そっか、早く戻った方がいいよ。ここに長居しちゃいけない。」
「どうして?」
「元の場所に戻れなくなっちゃうよ。」
何言ってんだ、と思ったが、その子の顔は真面目だった。
ふざけているようではないらしい。
「でも、僕帰り道がわからない」
僕は適当に歩いていたので帰り道なんてわからない。
「分かった、私が案内してあげる。」
二人で喋りながら歩いていた。
「なんかあったの?話してみて。」
少女にそう言われたのでなんとなく今までのことを話してみた。
「そっか、君も大変だね。」
「僕もどうしたらいいのかわからないんだ。だから家を飛び出してきた。」
「そっか、君は君が思う通りに生きた方がいいよ。じゃないと後悔するからね。親のいうことをそんなに聞く必要はない。まあ、そうは言っても簡単なことじゃないよね。」
「そうだな、簡単じゃない。自分がやりたいことを言ったら怒る。聞く耳を持たない。逆らうことも許されない。本当に嫌になる。」
「いっそのこと親を呆れさせちゃえば良いんだよ。」
「……結構おもしろいこと言うんだな。」
結構この少女は大胆なことを言う。
「ほら、ここが出口だよ」
「ありがとう。ここまで案内してくれて。君と話せてよかった。」
「そっか、よかった。お祭り楽しかった?」
「うん。楽しかった。」
「それなら良かった。君は後悔しないで生きてね。じゃあね。」
そう言い残して彼女は来た道を戻ってしまった。
「まって!また、……」
また会いたい、そう言おうとして振り向くともうそこには誰もいない、それどころか道がなかった。
「ありがとう」
もう、そろそろ別荘に戻らなければいけない。この日のことは忘れない。あの少女のことは忘れない。この最高のお祭りの思い出はいつまでも忘れない。忘れたくない。
あの日のこと ネオン @neon_
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