【KAC20201】 星降る夜の地上と宇宙(そら)
海星めりい
星降る夜の地上と宇宙(そら)
「今夜は四年に一度の大流星群の日です。ここ数回の中では最も多く降り注ぐとも言われている流星。もしかしたら、そろそろ最初の流星が見える頃かもしれません。大切な方や家族の方々と一緒に空を見上げてみてはいかがでしょうか?」
寒空の中、ビルに備え付けられた大型スクリーンからはどこかのスタジオでアナウンサーとゲストが今日の流星群について話していた。
そう、今日は四年に一度この星に流星群が訪れる日。
そして、今この場を歩く男――タツトにとっても大事な日だった。
天文学者の話では高速でこの星へと回帰する母天体の――……という話だがタツトを含め大多数の人はそこまで興味が無いだろう。
今日、この流星群が綺麗ということだけ感じていればそれでいい。
「ふう……」
ビル街と雑踏を抜け、小高い公園へとたどり着いたタツトは小さく息を吐く。存外、緊張しているのだろうか。
今はもう動かなくなった時計の下で佇みながら、空を見上げると一つの流星が夜空を切り裂くような軌跡を描いていた。
「……やっぱ綺麗だな」
「そうだね! たっくん!」
「っ!?」
自分しかいないと思って呟いた言葉に返事が来たことに一瞬驚き、後ずさるタツト。
だが、その声を知っていたのと視界の端に映った顔つきですぐに落ち着きを取り戻した。
「ミオリ……来てたんなら言ってくれよ、心臓に悪い」
そこにいたのは一人の少女――タツトの幼なじみであるミオリだった。のぞき込むようにタツトを見上げながらミオリは軽く手を合わせる。
「あはは、ゴメンゴメン。たっくん、真剣な顔で空を見てたんだもん。邪魔しちゃ悪いかと思って。まあでも、『綺麗だな(キリッ)』とかしてたから話しかけても良いかなーって考えを変えたんだけどね」
「キリッ、なんてしてねえから……」
悪びれていない様子のミオリにツッコみつつも、タツトは今日この場に来てくれたことに感謝していた。
「それで、こんな所に呼び出してどうしたの?」
ここは昔、タツトとミオリがよく一緒に遊んでいた公園なのだ。
日が暮れるまで、親や家族に迎えに来て貰うまで遊び倒した記憶だってある。
それに、一二年前、一緒に大流星群を見た記憶もある。
所謂、思い出の場所というやつだ。
「いや、話したいことがあってな……それで」
こう告げられれば、ミオリもなんとなく察したのだろう。
態度が少し緊張したものへと変わった。
それを見たタツトは伝えなければ、と口を動かそうとするのだが開かれた隙間から出てくるのは吐息だけだ。
「あっ! 見て、流星! たくさんだよ!!」
その時、ミオリがタツトの背後を指さしながら叫ぶ。
どこか邪魔された気になりつつも、タツトもミオリに倣うように空を見上げる。
するとそこには多数の流星が空を横切っていく光景だった。
以前見たものよりも遥かに量が多く、絶え間なく流星が降り注ぐ様はどこか現実感が薄く神話のような気さえするほどだった。
そんな素晴らしい光景に目を奪われ続けること数分、唐突にミオリがくしゃみをした。
「はくしゅん! ご、ゴメンね」
謝ってくるミオリの何もつけてない手を見たタツトはぶっきらぼうに、けれども優しく掴み、自分の元へと引き寄せた。
「え、たっくん?」
「別に……寒そうにしてからだ」
そう言うタツトの頬は赤らんでいた。寒さのせいではないだろう。
「えへへー、暖かーい」
「そうかよ……」
繋いだ手からはどちらの心音か分からない鼓動がどこまでも二人に伝わって――
「なぁーんてカップルのやりとりが今、地上のそこかしこで行われてんすかねえ?」
「バカヤロウ!? ふざけたこと言っている暇があったら手を動かせ!? まだ始まったばかりなんだぞ!? 大体誰だ〝タツト〟って!?」
「うちの弟っすねー。最近、連絡とってないんで何してんのか分かんないすけど」
この星の空の上――宇宙でそんなやりとりを行っているのは、統一連邦宇宙軍に所属している隊長とその部下だ。
彼らは今現在、人型機動兵器――
そう、この四年に一度の大流星群はただ綺麗なだけのものではないのだ。人類が設備を整える前は毎回数発の隕石が地表に降り注ぐ危険なものだったのである。
当初は地上に防衛設備が作られ迎撃活動が行われていたが、五〇年ほど前からは宇宙での迎撃も開始されるようになっていた。
現在は防衛設備の大半を宇宙へと移行させ地表への被害が殆どなくなっているせいか、大半の人々は『ああ、また大流星群の日か』みたいな感じだが、宇宙軍に所属している者にとっては心休まる瞬間などない大事な任務の日だ。
「そうかよ……っちぃ!! 今年は本当に数が多いな!?」
「さっきから撃っても撃っても少なくならないっすもんねー。艦隊はなにやってんすかねー」
迫り来る流星をライフルで細かく砕いていくが、星の重力に引かれている大型の塊を砕くのは至難の業だ。
本来、こういう大型の塊は展開された艦隊や宇宙基地の固定砲台による攻撃で砕いて、それでも大きい塊(大気圏で燃え尽きない物)をAFで砕くというのが基本的な戦略だったのだが――
「艦隊も砲台もフル稼働だとよ! AF部隊は中型以上に分類される塊を優先的に排除しろとのことだ。小さいのは後詰めの予備部隊が砕くってよ!」
「ええー、小型なら大気圏で燃え尽きる可能性が高いんすよねー。なら放っておいても良いんじゃないすか?」
観測機によって小型に分類される塊は大気圏内で燃え尽きる可能性が高いとされているサイズだ。
つまり、最悪宇宙で砕かなくとも地表に到達することなく消滅してしまうのである。
普段の流星群の量ならば万が一に備え砕いた方が良いのだろうが、今回は近年まれに見る量の流星群だ。小型は見逃して、中型以上に集中すれば今よりも楽になるはずである。
しかし、隊長はすぐに否定した。
「バカヤロウ!? 八年前の悲劇を忘れたか!? そう言って小型を全スルーした結果、地表に落ちた隕石があったせいで、艦隊司令官を初めとする上層部の大半が辞職したんだろうが!」
「そういえば……そんなことあったすね。その時はまだ入隊してなかったから軽くしか覚えてなかったっす」
「今回の艦隊司令官は小心もの……慎重な方だからな。小型でも見逃すことはしないだろうよ。それに、また落ちるようなことがあれば俺たち宇宙軍そのものが馬鹿にされる」
「それなら、やるしかないっすねー。あ、隊長、奥の砕くっす」
肩のレールキャノンから発射された弾丸が中型の塊を粉砕するも一部は砕ききれずそのまま地表へと向かっていく。
「よし、任せろ!」
そこを隊長のAFが両手のライフルでさらに細かく砕いた。
「これくらいなら大丈夫だろ……さて、次はどこに――」
その時、コックピット内にアラートが鳴り響き、エマージェンシーコールが入る。
『〝緊急連絡! 艦隊の予測迎撃地点と異なる未確認の巨大な塊を感知。付近のAFはすぐに向かって下さい! 繰り返します――……〟』
「っち、俺たちの近くに来る予測じゃねえか……行くぞ!」
そう声をかけるが、部下のAFは動く気配がない。
「おい、どうした! 故障か!」
「そんな……こんな超大型どうやったって無理っすよ!? 艦隊に救援と正確な位置情報だけ転送して任せるべきっすよ!?」
情けないことを口にする部下に対して隊長は声を張り上げる。
「気合い入れろ! もしかしたら、弟さんが告白してるかもしれないんだろ! こんな塊砕いたあとの光景は地表じゃさぞ綺麗だろうよ! きっと成功するぜ、その告白」
「でも、それ俺に関係ないっすよね?」
(っち、やっぱ弟の話――しかも、恋愛絡みじゃイマイチか、かといって俺一人じゃこのデカブツは厳しいしな……)
今も巨大な塊はこちらに向かってきており、AFの光学センサーが捉える距離まで接近してきていた。時間はあまり残されてはいなさそうだ。
そんな悩む隊長の脳内に妙案がひらめいた。
「……今度の合コンでお前が地上の弟のために頑張ったエピソードとして披露してやろう。家族のために頑張る男ってのは格好良いと思うぞ」
「……マジすか?」
「マジだ」
一拍おいて、
「うぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 全弾もってけぇえぇぇぇぇぇぇ!!」
巨大な塊に向かって急接近した部下のAFは肩のミサイルポッドからミサイルを全てはき出しつつ、レールキャノンとライフルを撃ち込んでいた。
「扱いやすいのは良いことだが、あまりバカなのも悩みどころだな……まあいい、俺もさっさと砕きまくるとしましょうかねぇ!」
いつも以上にやる気を見せる部下に苦笑しつつ、隊長もその援護に向かう。
この四時間後、今年の大流星群の日は収束を迎え、地上への被害は無しで終わったのだった。
後日、知ることとなるが弟――タツトは一年ほど前にミオリとすでに付き合っていたそうで、この日の兄の頑張りは特に影響なかったのだとか。
ついでに、合コンは失敗した。
【KAC20201】 星降る夜の地上と宇宙(そら) 海星めりい @raiki
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